第56回変身力研究会/県民の生きる支えとなるための地域社会の役割


 10月4日に「変身大賞受賞者と語る秋田の未来」をテーマに大町協働ビルで

シンポジウムを開催しました。本稿はプレゼンテーター3名のうちNPO法人蜘蛛の糸理事長佐藤久男氏の表題をテーマとした講演の要旨です。

1.はじめに

 第一回変身大賞を受賞したNPO法人蜘蛛の糸理事長の佐藤です。当時は変身大賞の知名度も低く、妻に変身大賞について説明するのに苦労したことを覚えております。

変身とは何かということを考えてみますと、株式会社むつみワールドの会長さんから聞いた蛻変(ぜいへん)という言葉を思い出します。セミの幼虫が蝉になるように、ヤゴがトンボになるように、青虫が蝶々になるように原型を留めないで変化することを蛻変ということを会長から教わりました。

企業も同じように蛻変しなければ生き残れないということです。蛻とはモヌケノカラ即ち空ということで、空にすることで新しい物が入ってくるので、変化が出来るということで、私の好きな言葉です。

 物事を成し遂げるために何が必要かと考えた時に、姜尚中東大名誉教授の講演で聞いた「ヨソ者、ワカ者、バカ者」がファクターであり、この三つの価値観を持つ者が時代を切り開くとおっしゃったことが記憶に残っております。

ヨソ者というのは価値観がヨソ者ということで、現在進行形の価値観に対して別の角度から見て違う価値観をもつ者がヨソ者であり、単に外部の者という物理的な意味ではありません。

 ワカ者というのは年齢ではなく、精神構造が常に若い人ということです。バカ者というのは文字通りのバカ者、鈍重だということです。自分で決めたことは何が何でもやるというのがバカ者ということです。

しかし、ただのバカ者では困る訳で、ヨソ者、ワカ者にも共通することですが、やっていることが社会性を持たなければならないということです。

 時々自分がやっていることが秋田県のために役立っているか、つまり社会性があるかを自己検証することが大事だと思います。特にNPO法人は必要だと思います。

2.自殺予防活動

 私が自殺予防の活動をして16年目になりますが、活動当初は、自殺は個人の問題なのでそういう活動しても減らないよと言われました。しかしその時は

やってみないと解らないじゃないかと考えて活動していました。秋田には全国でワーストが43あると言われています。その中でも人口減少率とか自殺率は秋田県の存亡に関わる大きな課題です。

自殺率全国ワーストはここ30年間で数年を除くと継続しております。このような秋田県が抱える課題は、県庁という行政機関が抱えている訳ではなく、秋田県を形成している私達県民一人一人が抱えているのです。ですから県民一人一人が元気にならなければ秋田県は元気になりません。自殺とかガンで悲しい思いをしている県民がいれば、県民の1人としてその人達を元気にしなければならないとの思いから、自殺予防活動を始めた訳です。

自殺予防団体の蜘蛛の糸を平成14年に設立しましたが、設立して数年間は何をやれば良いのか解らず手探り状態でしたが、17年に自殺は社会問題だと気付きました。

当時は全国で3万人自殺しておりましたが、GDP3位の先進国である日本の自殺率が常に上位にランクされているということは許されることではなく、明らかに社会問題だと考えました。

このため同年「自殺対策基本法」の制定を求めて参議院経済産業委員会に出席した後に、当時の尾辻厚生労働大臣に本橋秋大教授等と一緒に陳情し、その必要性を訴えるとともに、全国の仲間と10万人署名運動を開始しました。

本県でも2千6百人の署名を集めましたが、18年6月に全会派満場一致で法律は可決されました。私としてはこの法律の制定で自殺予防活動の精神的な支柱を得たと思っております。

3.相談活動

基本法が出来てから11年、自殺予防予の活動をして16年になりますが、その間5千人くらいの方から相談を受けております。北は北海道から南は沖縄まで全国の方から相談を受けており、昨日は東京で14年間も引き籠っていたという兵庫県の方から相談を受けました。

私は平凡であるということが好きです。それは相談者は人生に挫折している方がほとんどですので、私はなるべく相談者に近いように平凡でなければならないと思っております。

私は県庁職員、会社の経営者をしておりましたので、上から目線、結論を早く出すという習性を身に付けておりましたが、人の話をじっくり聞くという習性に変えるのに10年掛かりました。

売上を伸ばすという右肩上がりの考え方から、人生の底辺まで転がり落ちた人を支えるという考え方に変えるのに10年掛かりました。そのためには健康でなけれはならないと山登りをやって鍛えております。

遭難者を助けるためには救助者は丈夫で元気でなければならないと思っており、このため相談のある日の前日はお酒も控えるようにしております。

日本の自殺者はこの10年で1万人減りました。3分の1減った訳です。自殺対策基本法が出来て、年間30億円の予算で自殺対策を行った効果だと思います。

本県の自殺者のピークは15年の519名で、昨年は240名でしたので54%減少しました。本県の自殺対策は民間主導型・民学官連携のいわゆる秋田モデルと言われております。

本県では自殺予防団体が60団体ありその構成メンバーは1,500名です。近県の民間団体数は青森17団体、岩手10団体、山形5団体となっており、長野県のように団体がない県も数県あります。

これからの自殺予防運動についてお話しします。本県の全国に誇れるものとしては、小中学生の学力がトップクラスであること、枝豆の出荷量が日本一であること、そして民間主導の自殺予防運動が日本一であること等が挙げられます。

ここ数年、自殺予防で韓国との交流を継続しており、イタリアからも相談者が秋田に来ました。韓国の自殺者は4千8百人から1万3千人に増加する等、韓国社会の混迷を反映して大きな課題となっており、これを防止するために秋田モデルへの期待も大きいので今後とも協力して行きたいと考えております。

年齢も74歳になりましたが、県内のみならず韓国への協力等課題も山積しておりますので、もう少し頑張りたいと考えておりますので、ご支援よろしくお願い申し上げます。

        (文責:秋田人変身力会議 事務局長 永井 健)