秋田を元気にするフードコーディネーターを目指して(著)秋田人変身力会議 事務局長 永井 健

株式会社ワンダーマート 代表取締役 田中 徳子

はじめに

フードコーディネーター(以下FCと略)の資格をなぜ取ったのですかと聞かれますと、思い付きですと答えています。30代後半で勤務中でしたが、自分で何かやってみたい、自分の形を残したいとの想いから取得しました。実家は農家ではなかったのですが、嫁ぎ先が兼業農家だったので、採れたての農産物の美味しさをそこで初めて知りました。採れたての野菜や果実の美味しさを消費者に伝えたいと考えていたら、FCの資格を知ることになりました。田舎でFCの資格を取って何になるのと笑われました。事実、しばらくFCの仕事はありませんでした。

しかしこの間、秋田の農業の現状を観察していると、生産者には県等の行政機関が支援していますが、支援の方向が激しい消費者の変化について行っていないのではないか、消費者の我儘をビジネスチャンスとして捉えることが出来るのではないかと考えました。

FCの仕事

FCの資格は三段階あります。初級(3級)は食の基本的な知識を身に着けることです。2級、1級は細分化された資格の分野に入っていきます。例えば地場産の野菜や果実で商品を造って販売する「商品開発」や、地元野菜を使ったメニューで新規顧客を取り込み繁盛店にする「レストランプロデュース」、造った商品や飲食店情報などをPRする「イベント・メディアプロデュース」です。最初は県内農産物の素晴らしさを伝えたいということでメディアプロデュース、県産品のPR活動を行っていました。

レストランプロデュースとしては、飲食店で使いたい地元野菜の生産者を知らないということで農家等を紹介しましたが、さらに切実な課題として顧客の減少等から事業継続か廃業か迷っているとの相談も多くなって来ています。

食の商品開発は重要なことですので、本県でも県等の支援もあり積極的に取組

んでおり、開発―製造―量産までは行くのですが、販売がネックとなり産業としてうまく育っていないように思います。

宮城や山形でも仕事をしておりますが、山形に行って思うことは、秋田と同じような商品を開発しても販売に結び付けていることです。山形の経験を秋田で活かしたいと考えております。

FCの資格は1980年代に生まれました。当時はバブル時代、食文化が豊かになっていく頃で、食にお金が使える時代でした。外国から様々な食材が入ってきましたし、フレンチとかイタリアンとか特色のある飲食店が繁盛した頃です。そこで活躍したのはレストランプロデュースを専門にするFCです。レストランプロデューサーは開店時の店舗の内外装、メニューの開発、メニューブックのデザインまで手掛けます。

さらにメニューブックに載せる写真撮影に際して食器等を整えるのもFCの役割です。映画やテレビドラマの食卓風景を時代に合わせてコーディネートするのもFCの役割ですが、残念ながら秋田ではそういう仕事はありません。

商品開発のプロデュースで印象に残っているのは、県南で販売している「豆腐カステラ」です。「豆腐カステラ」を県外に売り込みに行った時に言われたのは、惣菜なのかお菓子なのかはっきりしないということでした。このためお菓子であることを明確にするためにパッケージや味を変えました。

横手の食文化を紹介するガイドブックや、男性でも簡単に秋田の食材を使って料理が出来るレスピ本の制作をお手伝いしました。

また、メンズクッキングも主宰しております。この話がオファーされた時は葛藤がありましたが、料理の造り方を教えるというよりは、クッキングをしながら楽しい時間を過ごすことをコンセプトにすることで、引き受けることにしました。

新しい商品造りは加速し競争が激しくなって来ています。製造者が造って売る時代から、消費者のニーズを探って造る時代になって来ています。

さらに消費者のニーズを掘り起こすような、時代の流れを先取りする力がFCに求められていますし、そのようなFCが商品開発に関わっていかなければ売れない時代になって来ています。

地方が元気になるためには商品力を高めなければなりません。そのためには製造者だけで考えていたのでは成功しないので、その商品に強いFCがいるので相談してみようと、考えて頂けるようなFCになりたいと思っています。

フードコーディネーター養成講座の開催

食品業界のコンサルタントとして課題解決に取組んでいましたが、FCの存在が知られていないので、FCの認知度を向上させるために、FCを増やそうと考えていたところ、たまたま横手市の事業としてFC養成講座が2010年に開設されることになり、その講師になりました。

農家のお母さんたちから農産物を商品化したい、若い方から飲食店を開業したいとの相談を受けますが、それがFCの仕事であることを認識してもらうために、FCを増やすことで口コミを通じて、FCの認知度を向上させたいと考えたからです。

起業という言葉が語られるようになったのはここ5年ほどのことではないでしょうか。私は起業したという認識は余りありませんが、ただ仕事をしたいということでFCの資格を取り、手探りのなかで仕事をして来ました。

しかし、FC養成講座を開設しFCについての講義をする訳ですから、FCの実践事例として自分の実績を話さないといけないと考えました。

そのためもあり、中小企業庁が地方の活性化のために専門家派遣事業を始めましたが、この事業の本県での窓口であるあきた企業活性化センターに認められて、専門家として登録させて頂きました。

最初は農業の六次化のお手伝いでした。ニンジンの生産者がリンゴ生産者と協力してニンジン・リンゴジュースを作りたいとの相談があり、マッチンングしコーディネートして商品化することが出来ました。

FC養成講座や専門家派遣事業を経験するなかで、秋田県の課題の実態を知るとともに、課題解決の能力を高めていくことが出来ました。FCの資格を取っても仕事に結びつかないと云っている人達には、FCはこれから役に立つ資格だからと、秋田は売り込みベタと云っている人達には、自分から売り込みましょうよと巻き込みながら、自分でも力を付けながら活動して来ました。

人材育成と課題解決への取組み

資格を取得しても仕事をない人達に、私が継続的に手掛けている商品開発と販路開拓を一緒に取組み経験を積ませることで、人材育成と課題解決が同時進行で出来るのではないかと考えました。単にFC養成講座で講義をしているだけではなく、現場を経験させることで本当の意味での人材育成が出来るのではないかと気づいたからです。

食品業界の課題は市場を見抜ける経営者が少ないことです。このため企業が商品開発や販路拡大を行う時は、商品のモニタリングやマーケットリサーチを身近な食の専門家(FC)に委託する体制を作ることです。

FCの資格を取ったけれども仕事がないという方がどんどん増えて来ているので、ワンダーマートという会社を設立しました。当社はフードビジネスのコンサルをする会社ですと紹介し、商品開発のアンケートをFCに答えてもらう。そういう形で人材養成をしながら取引先を開拓しております。

食品関連に強くヒトとモノとコトを結びつけることが出来る人材の育成を目指しておりますが、仕事は魅力のあるところ(特に個人事業の場合はその傾向が強い)に集まって来ますので、仕事を通じてスキルを磨いていくことが大事です。

人それぞれに個性がある訳ですから、経営者とウマが合えば長期間その企業と付き合って行けると思います。

人生は全部繋がっているとセミナーでは話しておりますが、私の場合はそれが全部FCに繋がっております。私は大学の新聞学科を卒業しておりますが、それがメディアの活用、売れる商品説明に役立っています。

当たり前と思っていたらつまらないという視点で日々活動しておりますが、自分を売り込むというよりは、FCにはこういう市場があるのではないでしょうかという売り込み方もあると思っております。特に自分の考えとマッチングできる経営者と出会うことは幸せなことです。合わない人と悩んでいるよりは、考え方が合う方とネットワークを組む方がお互い幸せなことです。

FC養成講座を開設して私はFCの市場を作りました。FCの認知度が高まるとFCを使ってみようかなという方が現れるからです。

FCとチームを組んで課題に取組んでいますが、また来て欲しいといわれる瞬間が私のアイディアがお金に変わる時です。アイディアがお金に変わるということは大変なことですが、今はアイディアがお金の変わる時代だと思います。

まとめ

新しいことへの挑戦を成功させるためには変化と、そして自らの変身力が必須です。好きなことに身を置くことは笑顔を作ります。美味しいものに囲まれることも笑顔を作ります。毎日笑っていたら、いいアイデイアも浮かびます。そのアイディアが時には人を助けることもあります。人は何かの役に立つために日々活動しているはずです。私のアイディアも、秋田の事業所様に喜んでいただける内容へと成長出来たかなと思っております。

(文責:秋田人変身力会議 事務局長 永井 健)