第57回変身力研究会/日本銀行秋田支店100年の軌跡と秋田の経営者に期待すること


 11月21日に吉濱久悦日本銀行秋田支店長を講師にお迎えして、秋田ビュー

ホテルで第57回変身力研究会を開催しました。以下はその講演要旨です。

  1. 日本銀行秋田支店の仕事と100年の軌跡
    1. 秋田支店の業務紹介

 日本銀行は、明治15年に設立された認可法人であり、お札を発行し、物価の安定と金融システムの安定に努めるという使命があります。組織としては、本店のほか国内に32支店と12の事務所を、海外にも7カ所の事務所を置いています。支店は地域経済の要所に配置されていますが、秋田支店では発券課、業務課、総務課の3課体制で業務を行っております。

 発券課では、日本銀行券や貨幣を地域の需要に応じて流通させる業務、銀行券の真偽や損傷具合をチェックし、流通に適さないものを裁断処分する鑑査、損傷した銀行券・貨幣を新しいものと交換する引換業務を行っております。

 業務課では、「銀行の銀行」として銀行間取引の決済を、また「政府の銀行」として国税や社会保険料の受入、官庁給与等の支払い及び国債の発行事務を行っております。

 総務課では、地域の金融機関の経営状況等をヒアリングや資料の分析を通じて把握する金融モニタリング、「金融経済概況」や「短観」等を取りまとめて公表する経済・産業調査、支店見学の受け入れや、暮らしに身近な金融に関する広報や金融教育についての情報発信、支店建物・設備の維持管理、物品購入、各種経費の支払い、支店の警備等を行っております。

(2)支店100年の軌跡

 日本銀行秋田支店は、1917年(大正6年)8月1日に全国では12番目、東北地方では福島支店に次ぐ2番目の支店として開設されました。

 大正初期、秋田県内にあった銀行は、現金手当のために往復3日をかけて福島市まで出向く必要がありました。こうした状況に対し、地元銀行の頭取が連名で当時の若槻大蔵大臣、三島日本銀行総裁に支店設置の嘆願書を提出する等の地元からの強い要望を背景に、秋田県と青森県の2県を管轄する支店として誕生しました。

 当時の秋田県は第一次世界大戦の好況を背景に、米を核とする農業、秋田杉の林業、非鉄金属の鉱山等が好調で、大正4年~8年までの4年間で県内産業の総生産額が4倍になる等、急速に経済が発展した時期であり、北東北経済の要でした。

支店開設当時は、行員(支店長、書記、書記補)と雇員(見習・小使と呼称された事務官の仕事を助けるためにやとう者)が、営業・出納・国庫・文書のそれぞれの係に配属され、事務の大半を人手により行っていました。

 1935年(昭和10年)には、女性職員が初めて採用され、来客・電話対応、タイプ係として働いていました。

 のちに農民文学作家となった伊藤永之介(1903~1959)は、秋田市中通尋常高等小学校を卒業して2年弱の間、見習として勤務しております。

 1952年(昭和27年)11月には、老朽化のため、店舗を建替え、現店舗が完成しましたが、終戦後県内最大の近代建築として注目を浴び、県内第1号となるエレベーターの見学に近隣の方々や小・中学生が多数訪れました。

  1. 秋田の経営者に期待すること

(1)日本経済の現状

今年の日本経済は、輸出に加えて、民間需要(個人消費、設備投資)や、2016年度第2次補正予算案件の執行が進む公共投資が景気をバランスよく牽引していることから、年率1%台後半の経済成長が見込まれています。

また、世界経済について、IMFでは3.6%の成長率を予測していますが、その内訳は先進国2.2%、中国を含む新興国・途上国は4.6%の成長を予測しています。2000年代に入り、新興国・途上国の世界経済の成長における存在感が増し、先進国は低成長トレンドになっていますが、総じてみれば、海外経済は緩やかな成長が続いています。こうした海外経済の現状を受けて、日本から海外への輸出については増加基調にありますが、米国向けではSUVの販売好調を受けて自動車関連中心に増加しているほか、中国等向けではスマホ部品等、情報関連や中間材を中心に増加基調となっています。

企業経営者の景況感も改善しており、短観の結果(業況判断D.I.)をみても、全ての規模の企業で景況感が改善しています。また企業収益が改善する下で、設備投資は緩やかな増加基調にあるほか、鉱工業生産も内外需要の増加を背景に増加基調にあり、出荷・在庫バランスも改善した状況にあります。

労働需給は、皆様も人手不足を感じていると思いますが、直近の失業率は2.8%、有効求人倍率は1.52倍と、労働需給は着実に引き締まっています。こうした中でパートを中心に賃金は上昇しています。

この間、消費者物価については弱めの動きが続いていますが、これは企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっていることなどが背景となっています。もっとも、マクロ的な需給ギャップが改善を続けるもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、中長期的な予想物価上昇率も上昇する結果、消費者物価の前年比は2%に向けて上昇率を高めていくと考えております。

(2)秋田県経済の現状

11月時点で本県の景気判断を従来の「緩やかに回復している」から「回復している」に上方修正しました。個人消費が緩やかに増加していること、公共投資が7月の大雨被害の復旧工事等で緩やかな増加基調にあること等を勘案したものです。

 また当店が四半期毎に行っている短観(業況判断D.I.)からは、全産業で1991年8月調査以来の景況感の改善と、全ての業種で景況感が改善または横這いとなっており、景気回復の裾野の広がりが窺われています。

(3)秋田県の課題

 人口減少

  秋田県の人口は29年4月1日時点で100万人の大台を割り込みました。社会減の要因としては若者の就職先・進学先としての選択肢が少ないこと等が挙げられます。 また県内人口に占める65歳以上の割合は全国の中でも高くなっており、先行きも上昇が続くことが予測されております。

直近の有効求人倍率は全国で1.52倍、秋田県で1.37倍と求人数が求職者数を上回っており、人手不足状態が続いております。本県では求人数の増加よりも求職者数の減少が倍率上昇の要因として大きい傾向が見受けられ、一言で人手不足と言っても、その背景は大都市と秋田では異なり、人口減少が影響していると考えられます。

② 高齢者・女性活用の推進

秋田県の70歳以上まで働ける企業の割合は全国一であり、高齢者の活用が進んでおります。

女性の年齢階級別労働力率をみると、出産・育児等で労働力率が低下する30 歳前後の労働力率の落ち込みが全国比少なく、共働き世帯の割合も51%と全国13位である等女性の活用も進んでおります。秋田では託児所の整備に加え、育児に祖父母の支援が得られることも影響していると考えられます。

しかし、企業の管理職に占める女性の割合は14%で全国44位と遅れているので、

今後の課題と考えております。

③ 労働生産性の向上

総人口の都道府県別順位は、秋田が2014年度で38位となっており、本県より人口が少ない県は9県あります。

付加価値額を就業者数で割って算出する労働生産性の都道府県別順位をみると、秋田は36位となっております一方、秋田より人口が少ない徳島県は5位、和歌山県が20位と一部の県で順位は逆転します。経済的な豊かさを測る尺度には様々なものがありますが、これから日本全体が少子高齢化・人口減少社会になる中にあって、高い労働生産性を実現し、質の高い経済を実現することは大切なことと思います。

秋田の生産性が徳島、和歌山よりも低いのは、製造業の生産性が両県よりもかなり低いことに起因しています。

徳島県、和歌山県が労働生産性を向上させるために推進している施策には、県外需要を取り込みながら、企業間連携により生産波及効果を高めるという点で共通したものがあります。またこうした施策の中で、若者・女性の雇用の受け皿となりやすい産業を振興するということも強く意識しているように思われます。

今後、秋田の製造業の労働生産性を高めるために育成すべき主な産業としては、産業連関表等の分析から本県産業への波及効果が高い、県産の農林水産物を原材料とする飲食料品製造業、パルプ・紙・木製品製造業及び需要の拡大が期待出来、集積が進んでいる電子部品関連の製造業が考えられます。

(4)秋田の経営者に期待すること

 これまで秋田県の課題をお話しして来ましたが、この課題を克服するために秋田の経営者に期待することを3点お話しさせて頂きます。

 1点目は秋田の人口減少は待った無しで進行しますので、人口減少先進県として積極的に省力化投資を実施し、生産性向上に取組んで頂きたいことです。

 2点目は秋田には原材料として活用出来る豊富な農水産物と、風力等の資源もありますので、産学官金の連携のもとにアントレプレナーシップを発揮して、付加価値の高い製品の開発に取組んで欲しいことです。

 3点目は経営者の重要な役割として人材の育成がありますが、未来を切り拓こうとする経営者の思いを若い社員と共有し、活力ある企業を創って欲しいことです。

(文責:秋田人変身力会議 事務局長 永井 健)