第59回変身力研究会報告/秋田が逆境をはねのけるために~「働き方改革」の2年間でみえたこと~


 3月14日に山田 薫 氏(日本新聞新聞秋田支局長)を講師にお迎えして、協

働大町ビルで「秋田が逆境をはねのけるために」~「働き方改革」の2年間で

みえたこと~をテーマに第59回変身力研究会を開催しました。以下は講演要

旨です。

  1. はじめに

 荒谷会長から紹介がありましたが4月1日付けで東京社会部に戻ることにな

りました。支局長は3年程度のサイクルで動くことが多いのですが、2年で秋

田を離れることになりました。前任も後任も私の大先輩ですので、支局長とし

ての秋田への赴任は驚きでしたが、幼い双子の子供を連れての秋田での生活

は、妻も気に入っており4年程度は居たいと思っていたので残念です。

 日経の秋田支局は秋田市役所北側のけやき通りに面しており、1階がガレー

ジ、2階が支局の事務・応接室、3階が4LDKの居宅になっているので、階段

を1階降りるだけで職場に通える等、労働環境には恵まれておりました。

2.「働き方改革」の2年間

 秋田での生活は、朝8時に子供を保育園に送ってから9時に出社し、取材や

原稿書き等の仕事をして夕方に保育園に子供を迎えに行き、夕食を済ませて事

務所で8時~10時頃まで仕事をしていました。

 秋田に転勤になる前8間年在籍していた東京社会部での生活は、事件が弾け

た多忙期には、夜討ち朝駆けということで、朝6時半頃に家を出て関係者宅前

で待機しコメントを取り、朝食後の10時頃出社して取材整理や原稿書き、情

報収集等を行い、相手が帰って来る頃に再度関係者宅前で待機しコメントを取

って、10時頃に夕食を取り終電で帰っていました。

 このため子供と会っている時間が無いので、双子の兄弟のため見分けがつか

ず、足首に紐をつけて識別しておりました。

 東京と比較すると秋田での生活は職住一体ということもあり、子供と過ごす

時間も取れる等恵まれたものでしたが、やるべき仕事はやっていたと思ってお

ります。

 地元情報は地元紙にかないませんが、キラリと光る企業等を発掘し記事にし

ました。秋田在籍の2年間で東北版のアタマ記事として掲載されたものが50

件と記者が4人在籍している仙台支局と1人当たりの掲載記事数では同数程度

となっており、それなりに頑張ったと思っております。

 印象に残っているのは、支局の近くにある美味しい居酒屋を一昨年の夏に取

材し記事にしたところ、全国版の夕刊に掲載され一昨年、昨年と東京からお客

様が来て下さっているとのことでした。

 やるべき仕事をするということは「選択と集中」を間違わないということだ

と思います。目の前の小さな仕事をやりたくなるのですが、そうしていると大

きな仕事を逃してしまうこともあるということです。

3.結果に向き合う

 秋田は魅力的で豊かな資源があるのにそれを上手く活用していないというの

が、私達のように転勤で県外から来た人の見方です。

 それなりに努力はしているのですが、結果から逆算した仕事が出来ていない

のではないかと考えております。

 具体的な事例としては現時点では明確になっておりませんが、おばこ農協の

コメ取引での56億円の巨額赤字の発生が挙げられます。同農協はコメ販売量

日本一を目指して合併しましたが、日本一を目指すために農家からのコメ買取

価格に多めの報奨金を上乗せし、信用調査会社によれば債務超過の卸売業者と

の取引で12億円余の未収金が生じている等、無理な取引を行っていたことが

判明しました。

 おばこ農協が向き合うべきは組合員農家の所得向上であり、コメ販売量日本

一では無かったのではないかと考えております。

 また、最近心配しているのは枝豆の売上日本一です。平成28年に日本一を

達成しましたが、山形県の統計では単価は8位となっており、儲からないので

止めたい話す農家もおります。

 同じようなことは、秋田県立美術館の改修工事についても云えるのではない

かと思いました。美術館は安藤忠雄氏の設計で平成25年に開館しましたがそ

の4年後の昨年に、1階の県民ギャラリーを壁で仕切る改修工事を実施するこ

とにし、8千万円の予算を計上しました。

 改修前に開催された秋田駅木質化プロジェクトを監修した秋田美大の小杉准

教授が企画した展示会を見たのですが、その時は外側のテラスを上手く活用し

て良い雰囲気を出していたので、安藤氏もそのような利用方法を期待していた

ではないかと考えました。

 改修の理由はギャラリーの使い勝手が悪く利用者が減少し、美術館への入場

者が減少したためとのことですが、議会でも余り議論された様子も無いので、

改修後の利用者数及び入場者数の推移を見守って行きたい考えております。

 結果に向き合わないという点では農業の6次産業化についても云えるのでは

ないでしょうか。地産の農産物で新規の商品を開発したので、道の駅で販売し

ますとのリリースが良くありますが、道の駅で売れなければ作っただけで終わ

ってしまいます。

 秋田空港では沢山のお菓子類がお土産として売られておりますが、売れてい

る商品は限られているように見えますので、6次産業化についても結果と向き

合う必要があるのではないでしょうか。

 県外から来たメディアの人は、秋田は発信力がないと良く話しますが、発信

するのは私達メディアの仕事なので、私達への売込みが無いということです。

 こういう製品を開発しましたので紹介して欲しいとの売込みが2年間で1件

だけでした。新規の商品を開発したので試食して欲しいとのお話しはありまし

たが、商品を持ち込んで来た業者はいませんでした。

作ったら販売し結果と向き合うという感覚を欠いているのでしょうか。

4.私の結果への向き合い方

 東京で私は社会部に属する事件記者でした。日経の社会部記者は朝日、毎

日、読売と比較すると二分の一から三分の一程度と少なかったのですが、日経

には警視庁捜査2課及び東京地検特捜部で扱う経済事件は絶対に落としてはい

けないという不文律がありました。

 このため、経済事件に関しては少ない人数でいかに勝つかという意識で仕事

をしていました。

そういう状況のなかで部下に話していたのは

  1. 不利を言い訳にしない②仕事をした気にならないということです。

人員不足を補うためには、特捜部事件では取調側の検察、被疑者側の弁護士

や家族に当たって被疑者の供述を引き出すことですが、どこから情報が出易い

のかを探ってそこに攻勢を掛けるのが、効率的な取材ということになります。

皆さんが経営する企業も人手不足ということで大変だと思いますが、それを

言い訳にしないで、省力化投資を行うか、工程を見直すか、仕事を絞り込む等

の対策を講じることが重要なことだと思います。

関係者宅で3時間も張り込んでいたら挨拶をされたので、仕事をした気でい

るとそれ以降の進展が無ければ、仕事をしたことに成らないということです。

結果の出る仕事をして旨いビールを飲んで、次の段階に進んでいくという好

循環が回り始めると仕事も楽しくなると思います。

5.終わりに

 先ほど秋田発のアタマ記事が多かったと話しましたが、記事の選定は仙台支

局長を経由して本社のデスク、部長が行っておりますので、秋田にはキラリと

光る食や観光資源が多いということだと思います。

 時間が無くて記事にしなかった事例ですが、日本に2社しかない木製の防火

扉メーカーが能代に立地していますが、納入先は高級ホテルや首相官邸等の要

人を迎える建物です。このメーカーの様に結果を出している企業もありますの

で、言い訳せずにしっかりと結果と向き合って欲しいものです。

 本日のテーマは逆境をはねのけてですが、秋田の逆境は人口減少や雪という

ことになりますが、私としては人口減少に拘ることなく豊かな資源を活用して

結果を出して欲しいと考えております。

 私ごとになりますが私の妻の母親は大仙市南外の勝軍山(しょうぐんざん)の

麓で育ちました。義母の兄はスペインで勝軍という名の日本料理店を営んでお

りますが、繁盛しているようです。

 ということで私は秋田とは少なからぬご縁がございますので、引き続き秋田

に関心を持ち続けたいと思っております。何かお役に立てることがあればご連

絡下さい。

 東京でも結果に向き合って仕事を続けたいと考えております。

             (文責:秋田人変身力会議 事務局長 永井 健)