第71回変身力研究会・講演会報告/「秋田再生のカギは女性が持っている!」 ~なぜ女性が元気な地方は栄えているのか~

6月24日に協働大町ビルで元日経ウーマン編集長 麓 幸子 様を講師にお迎えして、「秋田再生のカギは女性が持っている」をテーマに第71回変身力研究会・講演会を開催しました。

以下はその講演要旨です

1.はじめに

大館市から特急に乗って来ました麓です。今日のテーマは女性活躍ですが、「女性が元気な地方は栄える」これは当たり前です。男だけが威張っていて、女性が虐げられている社会には未来はないです。

秋田県の人口は956,093人でそのうち女性は約50万6千人と男性より約5万6千人も多いです。女性が力を発揮しなければ秋田に未来はありません。

そういう状況下でのコロナ禍です。コロナ禍では何が問題なのかと云えば、意思を決定する場に女性の姿が見えないということです。国連はコロナ禍でのDV(ドメスティックバイオレンス)をもう一つのパンデイミックであると言い、この経済不況化の一番の被害者は女性であるとも言ってもおります。

またコロナ禍はコロナ戦争とも云われております。今までの戦争は男性が最前線で戦ってきましたが、医療や福祉従事者は女性が多く、今回のコロナ禍では女性が最前線で戦っている訳です。

しかし、医療や福祉の現場での決定権を握っているのは、男性が多いのではないでしょうか。コロナ禍でも最前線で戦っている女性の声が届かない体制になっております。

女性の活躍を測る際に私は一つの物差しをもっております。それは意思決定層に女性がどれだけ入っており、多様化しているかということです。

多様性がなぜ必要かというと、そのほうがリスクをキャッチする力が高まるからです。

新型コロナのような様々なリスクが今後起こることが想定されますが、意思決定層の同質性が高いと、同じ価値観や行動様式となり、情報をキャッチするアンテナの方向も同じということになりがちです。そうなるとリスクや変化を見逃してしまいます。

コロナ禍においては地方が見直されております。

これから予想されるウィズコロナの世界では都市化(密な社会)から開疎化(開放された社会=地方)に価値が移るだろうと慶応義塾大学の安宅和人教授が指摘しています。

人口密度を調べてみました。大館市は1㎢当たり76人ですが、私が昨年まで住んでいた武蔵野市は1万3千人でした。

コロナの感染リスクの少ないクリーンな地方は、新たな価値を持ちました。

今、コロナ禍で東京一極集中から地方分散への機運が高まっている中で、秋田県の魅力を高めるためには、物理的に開疎であることだけでなく、精神的にも開かれていることが必要だと思います。その人らしさを認めること、多様性を受容していることが必要です。もちろん、人権を尊重しているということは大前提となります。

しかし、東京から秋田に移住して来た方々はかなりの葛藤を抱えております。

例えば「女性は出しゃばるなよ」と言われた女性、「結婚していないのはおかしい」と言われた独身男性もいます。その人らしさを認めない古い価値観が横行しており、無言の抑圧があるのです。そういう生き苦しい空気を嫌ってって若者が都会に出て行くということもあると思います。人口減少という大きな課題を持つ地方の改める点だと思います。

2.自己紹介

自己紹介しますと、東京のメディアで30年以上働いていました。日経ウーマンの編集長や日経BP社の執行役員などを務めましたが、昨年、退社して故郷の大館市に帰郷、4月に共生社会構築を目指し、市長選に出馬して落選しました。敗北はしましたが、出馬に後悔はしていません。「女性が出てくれてよかった」と多くの方から励ましを受けました。

現在は大館を拠点に活動しております。地元で、デイサービスや訪問看護ステーションを運営している株式会社なが岡と、家業である火薬・実砲販売業の株式会社でんろくの取締役、共生社会を目指す一般社団法人敬友の理事長、東京に本社があります東証2部上場の物流関連企業ユーピーアール株式会社の取締役や母校筑波大学の非常勤講師も務めております。

また、今年度より、地域で男女共同参画を推進する「あきたF.F.推進員」にも就任しました。日経新聞が発行する地方創生・地域経営をテーマとする「日経グローカル」の直言コーナーの執筆者になりました。私の活動の拠点は大館市比内町扇田の長岡城跡で、そこを「比内ヒルズ」と名付け、昨年は「カフェふもと」を開設しましたが、8月から障がいのある方の就労を支援する「ふもとの家」をオープンする予定です。

3.日本は女性活躍の後進国

世界経済フォーラムが今年発表した2019年度の経済、政治、教育、健康の男女格差を分析したジェンダーギャップ指数で、日本は世界第3位の経済大国にも拘わらず153国中121位にランクされる等女性の活躍では後進国です。

120位がアラブ首長国連邦で122位がクウェートですから後進国振りは際立っています。

教育、健康ではそれ程ではないのですが、経済、政治面が遅れております。

女性の就業率が44%余と平均並みですが、就業者に占める管理職の割合が15%弱と極端に低いからです。

それでは秋田県はどうでしょうか。秋田県は女性の割合が53%と男性よりは5万6千人多いのですが、秋田県における女性管理職の割合は、県職員7.5%、民間企業5.9%と非常に低い割合になっております。

大館市議会を傍聴する機会がありましたが、議場の議員26名中女性は2名、市役所幹部は全員男性という残念な風景でした。

政府は2020年までに女性管理職の割合を30%までに高めるとの目標を掲げておりましたが、達成には程遠くなっています。進捗していない要因としてはWLB(ワーク・ライフ・バランス)を無視したビジネス慣行、女性の差別的雇用制度、家庭における性別役割分業が均衡を保ち、WLBを妨げる社会経済制度になっていることが大きいです。

女性が活躍出来ない構造は、専業主婦の存在を基準とした男性中心型の労動慣行、女性人材を育成できない男性管理職の問題、少数派であるゆえの女性の葛藤などが挙げられます

男性には当たり前のようにお手本であるロールモデルが存在していますが、女性はそうではありません。そうなると、将来自分がどのようなキャリアを築

けるのはわかりません。このような将来を見通せないことを、専門用語で「キャリアミスト」と云います。

女性に申し上げたいのは、あなたが不安になるのはあなたのせいではないということです。不安になる社会構造があるのです。その構造を打ち破り、新たな社会モデルを作り出すときなのです。私達は変化を待っているのではなく、変化に振り回されるのでもなく、変化を作り出す「チェンジメーカー」にならなければならないと思っております。

4.今の時代

・現代は変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字を取ってVUCAの時代、予測不能な時代とも云われています。DX(デジタルトランスフォーメーション・進化したデジタル技術でより良い生活へと変革する)もますます推し進められるでしょう。コロナ禍でテレワークや大学のオンライン授業、オンライン診療等が進捗しております。DXで働き方改革が進み女性が働き易い環境が整備されることは、良いことだと思います。大都市に住まなくても地方で働き、勉学出来る状況になりつつあります。

そういう意味では東京が有利で地方が不利との構図も変わりつつあります。

人口減少ですが秋田県の人口は昭和31年の135万人をピークに減少に転じ直近は95万人と最大値と比較すると40万人減少(-29.6%)しております。

高齢化率も33.8%と全国トップです。ちなみに大館市は38%です。人口減少時代には性差や年齢に関係無く、女性や高齢者の活躍が求められています。

開疎化で東京一極集中が是正され、地方分散の機運が高まります。一例として桐生市の織物業者が布マスクの生産に乗り出した事例をお話します。

女性の発案で織物の伝統技術を活用してデザイン性の高い布マスクを生産し地元の経済を回すとともに,競争の激しい東京を飛び越えて需要が見込める先進国等グローバルに販売を始めたのです。

マーケティングで重要なことは、高度な消費者マインドを持つ女性の視点です。何を造って何を売るかを考えるマーケティングの領域には、世界の購買決定権の64%握っていると云われる女性を入れるべきなのです。地方経済のためにも女性の力を生かすことがとても重要であるといえるのではないでしょうか。

5.女性活躍は成長戦略の柱

纏めとしてなぜ政府が「女性の活躍」を成長戦略の重要な柱にしたかをお話します。

企業の成長に必要なことはイノベーション(革新的な製品・製法で新たな価値を生む)とエンゲージメント(継続的に組織に貢献する意欲)です。

イノベーションを生み出すためには女性の視点が必要です。

女性のみならず多様な人材の能力を最大限に生かす「ダイバーシティ経営」を目指すべきです。

イノベーションと云えばノーベル賞級の技術革新を連想しますが、改善の延長でもあります。

イノベーションは既存の知識と知恵とそれと真反対にある知識と知恵がミックスされて生み出されると云われております。

イノベーションは意思決定層が50歳以上の日本人男性が多くを占めているモノカルチャーの職場からは生み出され難いと云われており、女性や障害のある方等多様な人材がいる職場では生み出され易いと云われております。

日本では女性の力は「眠れる資源」と政府の資料では表現しております。

そこで封印されている女性の能力を最大化するためには、全ての人が役割を持ち、その能力を発揮できる環境を整えることが重要です。

最大の人口減少県でかつ女性の管理職割合が6%前後に低迷している秋田県の喫緊の課題でもあります。

次にそのポストに最もふさわしい人が付ければ、パフォーマンスが上がるということです。

コロナ禍で成果を上げた台湾のIT担当大臣オードリー・タンは男性から女性に転換した38歳の若手政治家ですが、流通するマスクの過不足をITで管理しマスク不足を防ぐという画期的な施策を展開し、一躍世界的に有名になりました。

一方日本のIT担当大臣がITをコロナ対策に活用して成果を上げたとの報道は目にしておりません。

リーダーにふさわしい人は男性にも女性にもいますが、ほぼ男性が占めております。

それは公正な競争が行われず、女性が排除される仕組みになっているからです。

男性、女性、双方の中からそのポストにふさわしい人を選べば、台湾のIT担当組織のようにパフォーマンスは上がります。

また、組織メンバーのエンゲージメントも上がります。エンゲージメントは継続的に組織に貢献する意欲のことです。

ふさわしくない人がトップに就けば、パフォーマンスが落ちるしエンゲージメントが下がってしまいます。

組織のトップが一番注意すべき点です。私は女性をどんどんトップにすべきだと云っているのでは無く、公正な競争をして一番ふさわしい人がトップになるべきだと云っている訳です。

ダイバーシティマネジメントのメリットは、リスク管理能力や変化に対する適応能力が向上することです。

モノカルチャーのマネジメントでは、様々なリスクを見つけることは出来ません。

そこに色々なスペックを持つ人達を入れることによってリスク管理能力が向上する訳です。

イノベーションにはプロダクトイノベーションとプロセスイノベーションがあります。

プロダクトイノベーションとは、市場に適合した商品やサービスを開発することですが、その過程に購買決定権の64%を握る女性が参加すれば開発が容易になるわけです。

プロセスイノベーションとは、例えば、気付かなかった課題を可視化することでプロセスが改良されることです。

一例を申し上げれば、生産現場でも女性が活躍するようになったメーカーの工場で、男性よりも背の低い女性たちのために工具置場の高さを90センチほどに下げて工具を取りやすくしたそうです。

そうしたら、女性だけでなく男性も高齢の工員も工具が取りやすくなり、全体の効率が上がったそうです。これがプロセスイノベーションなのです。

6.地方を変えた女性達

私の著書に「地方を変える女性たち」がありますが、そこに登場する3人の女性を紹介します。

高知県の西村直子さんは調理師の資格を取って、世界中を渡り歩き料理の修行をして帰郷し、高知市にジビエ料理のレストランを開設しました。

長く滞在したニュージーランドでは鹿肉を料理する機会が多かったのですが高知に帰ったら鹿が害獣として扱われていることを知り、鹿肉レストランを開設しました。

高知の鹿肉は臭みもなくあっさりしているので好評です。害獣として殺処分せずに資源として活用することで、地域の活性化に貢献しています。

秋田でも熊肉の活用法を考えたら如何でしょうか。

次は広島県尾道市の豊田雅子さんです。大好きなヨーロッパの風景と似ている故郷・尾道に空家が増えていること知り、尾道らしい古い家や景観を守りたいとの一心で帰郷しました。

眺めの良い空家を購入して2年近い期間を掛けてリフォームしましたが、その模様をブログで発信したところ尾道に移住したいとの仲間が増え、その方々と「空き家再生プロジェクト」を立ち上げて精力的

に活動しています。空き家は負の遺産ではなく、地域資源ですと語っていました。

3人目は藤里町の社会福祉協議会会長を務めている菊池まゆみさんです。

引きこもりの人を就労者に変えた方です。菊池さんたちが全戸調査したところ引きこもり状態だった人が約110人いたそうです。

彼らはいろいろ場面で挫折をしていて仕事が出来なかったり、長続きしなかったりした。そのことで引きこもってしまった。

そのような方々に外に出ようと声掛けしましたが、何処に行けばいいのかとの声が返ってきました。

その声にはっとしたそうです。彼等は仕事を求めていたのです。

そこで町等の支援で「こみっと」というレストランを主体とした複合施設を開設し、彼等に働いてもらうことにしました。

4千人の町で110人位の人たちを就労者に変えた訳です。

その仕組みと菊池さんの情熱と志は素晴らしいと思います。

地方変えた女性達を取材し、印象に残っているのは、「地域の課題は宝」という言葉です。

課題解決を行政に任せるのではなく、皆で知恵を出し合って解決して行く、その行動が地域の絆を創ることであり、それが地域の宝だと言っていました。

その視点は地域づくりでとても重要だと思います。

7.日本はエンゲージメントが世界最下位層である

私は先ほどエンゲージメントとは継続的に組織に貢献する意志と話しましたが、17年5月にギャラップ社が発表したエンゲージメントに関する国際調査では、日本は熱意に溢れる社員は6%程度しかなく、139ヵ国中132位と最下位クラスでした。

この発表を聞いて大企業の幹部は、うちの会社は大丈夫かと青ざめたそうですが、ギャラップ社の会長は、21世紀以降社会人になった「ミレニアル世代」に、今まで効率的であった「コマンド&コントロール」(指令と管理)というマネジメント手法は効果が無くなったからだと分析しております。

「お前これをやれよ、文句言わずにやれよ」という古い手法が効かなくなったのです。

今までは同質性の高いモノカルチャーな組織だったので効果があったのですが、現在は、組織の構成員が多様化しております。専業主婦が当たり前だった時代から共働きが多くなり、育児や介護等の家事を夫婦で分かち合いながら生活する時代になったからです。

このように組織が変わって来ているのに、日本では未だ「コマンド&コントロール」で経営している企業が多い。それが社員の意欲を削いでいるのです。

育児や介護等で、男女を問わず時間等に制限が生じがちな社員が多くなっています。

この時代には、オレに付いてこい的なリーダーでは無く、高いコミュニケーション力でメンバーの意欲を高めるリーダーが必要になっているのです。

従来の管理型、支配型、恐怖と報酬の交換型のマネジメントから共感型、支援型、変革型のマネジメントに変えていかなければなりません。

近年、東京の企業では、1on1型ミーテイングが注目されています。部下と上司が1対1で話し合うことですが、このミーテイングで重要なのは上司が部下の話を傾聴することです。

1on1型ミーテイングで自慢話をするような上司もいるようですが、それは間違いです。

傾聴して対話することです。

コミュニケーションで相手の意欲を引き出すことです。

そういう意味ではコミュニケーション能力の高い女性のほうがリーダーに向いているかもしれません。

私の尊敬する方に山形県在住の関根近子さんという方がいます。

山形県で資生堂に美容部員として入社し、執行役員常務にまで昇進された関根さんから聞いたお話しを紹介します。

関根さんは、20代のころ、化粧品が売れなくてなくて仕事を辞めようかと思って先輩に相談したそうです。

そうしたら上司は「私達の仕事は化粧品を売ることではなく、化粧品を通して女性の幸せと美しさに一生貢献することですよ」と励まされたそうです。

先輩が資生堂のミッションを自分の言葉で話してくれたことで、視界がパット開けた思いがしたそうです。

そうして化粧品を売ることが自分の一生をかけるに値する仕事だと思ったそうです。

その後は育児、介護もこなしながら役員にまで昇進しました。

皆様も関根さんが若い時に出会ったリーダーのように、コミュニケーションで部下のエンゲージメントを高めるリーダーになって下さい。

服従したら報酬を与えるという交換型では無く相手の価値観を変革する変革型のリーダーになって下さい。

特に女性の皆様には、女性のロールモデルとしてイノベーションを起こし、エンゲージメントを高めるリーダーとして、新しい社会モデルを創る変革者として、人生100年時代を切り開くフロントランナーとしての役割を期待しております。

私を含めて人口減少の激しい秋田県に生きるものとして、イノベーションを起こすような社会であって欲しいですし、

皆が意欲的に生きられるような社会であって欲しいです。

地方に移住してもらうための成功ポイントとしては、ここはなんにも無い処です…では駄目で、自分達が住んでいる地域に誇りを持って欲しいですし、

また誇りを持てるような地域にしていかなければなりません。

女は出しゃばるなとか若者は口出すなではなく、個々人が尊重され多様性が受容される地域にならなければなりません。

そういう地域にするためにお互い頑張りましょう。

 

(文責:秋田人変身力会議事務局長 永井 健)