第63回変身力研究会報告/秋田県におけるクルーズ振興の取組について


 11月9日に協働大町ビルで白井正興氏(秋田県建設部港湾技監)を講師にお迎えして、「秋田県におけるクルーズ振興の取組について」をテーマに第63回変身力研究会を開催しました。以下は講演の要旨です。

  1. はじめに

  私はご紹介にありましたように国土交通省に入省後、本省及び関東、九州、四国、フィリピンに勤務しておりましたので、東京以北勤務は初めてで、秋田での勤務は1年半になりました。

  荒谷会長のご挨拶にありましたように、秋田への観光客数は東北でも最下位ですが、そういう意味では伸び代があると思ってますし、クルーズ船寄港についても伸び代があると考えております。

  観光では宿泊の経済効果が大きいですが、クルーズは朝着いて夕方に出航しますので、宿泊には結び付きませんが、大型船になると3千人以上が乗船しておりますので、日中に観光して頂き、より多く県内で消費してもらうためにはどうしたら良いかを、県民の皆様と一緒に考えてたいと思っております。

  本日は「クルーズの潮流」「秋田に来ているクルーズ船」「クルーズ船誘致への取組み」「クルーズ列車への取組み」「秋田港の将来計画」の順でお話し致します。

  1. クルーズの潮流

  クルーズ旅行の感覚は、一昔前にはクイーンエリザベスやタイタニック等の豪華船に乗ってのお金持ちの優雅な船旅というイメージでしたが、最近は安い価格帯では長距離移動・宿泊・食事代込みで一泊2万円代もあるので、お得な旅行という感じではないでしょうか。

最近秋田港に寄港したMSスプレンディダは、テレビショッピングのジャパネットたかたが販売しており、庶民でも手が届く手頃な価格帯ということでしょう。

 このため我が国に寄港するクルーズ船も一泊5万円以上の高価格帯船の割合が11%と低下しているのに対して、1泊25千円以上の中価格帯が44%、1泊1万円前後の低価格帯が45%と上昇してきております。

 世界のクルーズ人口は年々増加しており、2009年の17.8百万人に対して2017年は26.7百万と8年間で1.5倍となっております。増加の要因は経済成長が著しい中国人の利用が急増していることです。

 クルーズ人口の増勢を背景にクルーズ船の建造も増加しており、2016年以降9万トン以上の大型船が7~9艘就航しております。秋田港への寄港の問合せがある16万トン級の大型船の建造費は1千億円超で乗客定員は井川町程度の4千5百人です。

我が国最大のクルーズ船は飛鳥Ⅱで5万トン、定員872名ですので最近の外国籍のクルーズ船がいかに大型化しているかが解ります。

 クルーズ人口の地域別構成比は、カリブ海クルーズが盛んな北米が49%、地中海クルーズの欧州が24%ですが、アジアは15%に止まっております。

 アジアのクルーズ人口は中国59%、台湾9%、香港6%と中国系が大半を占めており、日本は僅か7%と少ないです。中国人クルーズ客は年平均76%伸びていますが、そのほとんどがアジアクルーズで、その中でも約5日間の日本、韓国向けのクルーズが大半です。

 2百万人を突破した中国人クルーズ客の平均年齢は45歳、約5日間のアジアクルーズが中心ですが、日本人は57歳で約6~7日間の地中海等海外クルーズが大半です。

 2017年のアジアの港湾へのクルーズ船の国別寄港回数は6,793回でうち35%は日本ですが、上位5港は博多、長崎、那覇、横浜、石垣と発着が多い横浜を除くと九州、沖縄の4港です。

 これは上海発着で5日間の買い物、南国リゾートクルーズの日程を考慮すると九州、沖縄が限度で、日本海の主要港に寄港して秋田まで来るには10日程度を要するからです。このため秋田港に寄港するクルーズ船には中国人の乗客は少ないです。

 しかし九州、沖縄では飽き足りない中国人が、日本海側の文化体験を目的に、人気の高い北海道訪問を兼ねて秋田に上陸することを期待しておりますし、秋田の魅力を発信し続けたいと考えております。

 また、観光大国のフランスへの一番多い観光客は隣国のイギリスということですので、そういう意味でも中国、韓国、国交正常化後の北朝鮮、ロシア等の隣国からの来訪を働き掛けたいと考えております。

  1. 秋田に来ているクルーズ船

  秋田港への寄港回数は、2017年内航クルーズ船9艘、外航船9艘の計18艘、18年は内航11艘、外航7艘の計18艘、19年は内航11艘、外航16艘の計27艘が見込まれる等年々増加しております。

  また、ダイヤモンドプリンセス(11万トン)、MSCスプレンディダ(13万トン)等の大型船も今年寄港しており、19年はクイーンエリザベス(9万トン)等の有名船も寄港予定です。

 なお寄港時には歓迎イベントとして、なまはげ太鼓、小町娘、秋田犬、竿灯、秋田民謡の踊りを披露するとともに、きりたんぽの振る舞いや着物の試着等も行っています。

 見送りイベントとしては、市民吹奏楽団による演奏、踊りや岸壁からの旗やサイリウムを振ってのお見送りを行っています。

  また、初寄港船の出航時には大曲の花火を打ち上げて見送りしています。

  1. クルーズ船誘致への取り組み

  クルーズ船寄港への誘致活動をご紹介します。昨年から開催しているクルーズ船会社、旅行会社、船舶代理店等を対象とした説明会を9月に東京で開催しました。本県からは県及び秋田、男鹿、能代の寄港3市の他、大館市等の内陸4市、JR等の民間企業が参加し、19社30名の業界関係者にクルーズへの取組み、オプショナルツアー商品等を説明しました。

 東京で開催するとそれなりの方が集まってくれるので、引き続き内容を充実して開催したいと考えております。

 10月には上記クルーズ船会社等を対象に2泊3日のファムツアー(旅行業者等を対象とした現地視察)を実施しました。初日は寄港地の秋田市内を案内し、2日目は大曲の花火秋の章をメインに県南を案内しました。

 寄港後のオプショナルツアーとしては、男鹿のなまはげ館、角館の武家屋敷が定番でしたが、増田の内蔵や大曲の花火等を紹介することで、秋田の観光資源の豊さを知って欲しかったからです。

 参加者は観光資源の他に昼食を取るレストランやその収容人員、外国語対応、バスの駐車場の有無等もしっかりチェックしておりました。

 また、海外クルーズ船3社の寄港地を決定するキーパーソンをお招きして、知事等がトップセールスを行うとともに、観光地等をPRすることで県内3港への寄港を働き掛けました。

 海外での誘致活動として、3月にクルーズ船の本社が多く所在するアメリカ・フロリダ州マイアミで開催された世界最大のクルーズ見本市や5月に中

国大連で開催された中日観光大連ハイレベルフォーラム及び北前船寄港地フォーラムに参加しました。両国では秋田犬が注目を集めました。

 クルーズは秋田だけでは成り立ちませんので、競合関係にない周遊ルートの位置関係にある小樽、富山・伏木、金沢、舞鶴、境港と環日本海クルーズ

推進協議会を設立しており、誘致及び情報交換の場として全国クルーズ活性化会議、東北クルーズ振興連携会議にも参加しています。

  1. クルーズ列車の取り組み

 今までお話ししましたように、秋田港へのクルーズ船の寄港回数は年々増加しており、さらに3千人超が乗船する13万トン超の大型船の寄港打診がありましたが、平成28年まではふ頭からの二次交通手段は、バスとタクシーのみでその駐車場も不足していました。

また、大型観光バスも全国最小の140台程度と少ないことから、秋田市内・県内各地への誘客拡大等の円滑な移動手段の確保が課題となっておりましたので、29年3月に「あきたクルーズ振興協議会」を設立し、「クルーズ列車ワーキンググループ」を立ち上げました。

 ワーキンググループでは土崎駅からふ頭まで敷設している貨物線に、旅客列車を運行するための施策を検討し、短期間の討議で竿灯期間中(8/3~8/6の4日間)にクルーズ列車をトライアル運行することを県、市、JRの三者間で決定しました。

 旅客列車を運行するためには国の許可が必要ですが、JRのご尽力もあって短期間で取得出来たことには感謝申し上げます。

 竿灯期間4日間にクルーズ船が4艘寄港しましたが、その間トライアル運行を実施しました。ふ頭から約600mの秋田港駅にスロープ2カ所の乗降設備を設置し、秋田駅まで15分の距離を4両編成(着座+立座=400名)の秋田クルーズ号が乗船客数に応じて1~2往復しました。運賃は大人200円、子供100円で運行期間中417名が利用しました。

 クルーズ船号の運行効果としては、バス移動では30分を要する秋田駅までの移動時間を15分短縮出来ること、秋田駅からJRを利用して県南、県北等の県内周遊等の選択肢が広がることが期待出来ることです。

 利用者からは列車は時間が正確だから出航時刻に遅れる心配がない、貨物駅を観光客向けに使用するアイディアやクルーズ客用との特別感も良いとの評価を頂きました。

また、業界からの評価も高くクルーズ・オブ・ザ・イヤー2017と平成30年度第91回日本港湾協会企画賞を受賞しました。

 今年度は国の交付金等を活用して22万トンまで受入可能な係留施設の整備、大型バス駐車場の増設、秋田港駅プラットホーム及び待合室の新設を実施しました。

 クルーズ列車を活用した県内周遊の様々なコースとしては、新幹線で行く角館、リゾートしらかみで行く十二湖観光等が販売されており、クルーズ船寄港により観光客が増加しております。

  1. 秋田港の将来計画

  秋田港の将来計画を今年7月に改定しました。秋田港に寄港するクルーズ船は月2回寄港するセメント運搬船と中島ふ頭を共用しておりますが、現状、海上保安庁の巡視船が使用している場所を埋め立てて、ポートセリオンの前にクルーズ船専用岸壁を新設することにしました。

 セリオンの前に寄港することで見栄えも良く、秋田港駅に近くなること、竿灯開催時には2艘以上の寄港希望がありますので中島ふ頭も利用することで、2艘同時に着岸が可能になるからです。

なるべく早く着工し、背後の道路の付け替えや駐車場の増設等も行いたいと考えております。

現状のクルーズ船の受入体制は、行政が主体で民間に業務発注しておりますが、これではクルーズ船寄港の経済効果も限定的なので、今後は昨年3月に民間24団体、行政21団体が会員である「あきたクルーズ振興協議会」に受入業務を移行することで、クルーズ客及び経済界の満足度向上を図って行きたいと考えております。

ポートセールス、アクセス・ターミナルの整備等は行政の仕事ですが、乗客にモノ、体験、感動を売ることで乗客を満足させ、儲ける仕組みを作ることは民間の仕事ですし、地域の方々にもクルーズ船の見学、乗客とのふれあいを通じての観光案内や語学体験で相応の満足を得て頂きたいと思っております。

 新たな取り組みとしては、出港時に大曲の花火を県のサービスとして5分間で百万~2百万程度掛けて打ち上げておりますが、今後はこの花火を船会社が買って打ち上げるようセールスしたいと考えております。

 先ほどお話ししましたが、九州、沖縄には年間2百万人のクルーズ客が来ておりますが、この方々に「あきたこまち」をお土産として販売が出来ないか検討しております。

 中国東北部で作付けした「あきたこまち」が北京、天津等の大都市で販売されていることから、中国では「あきたこまち」はブランド米として浸透しておりますが、同国に直接輸出するには種々のハードルがあるため現状難しいため、

九州、沖縄を巡るクルーズ客のお土産用として販売したいと考えております。

 県民が気軽にクルーズに親しんでもらうために、先ずは秋田港から苫小牧、新潟、敦賀に出航しているフェリーでの船旅を利用するよう船主である新日本フェリーと相談したいと考えております。

また、パスポートの取得率が低い県民がクルーズでの国外旅行を楽しんでもらうために、セリオン3階にクルーズPRコーナーを設置しました。

 さらに、内航クルーズ船の乗客はほとんど首都圏の方ですので、秋田に興味を持ってもらい秋田に住んでもらいたいと考えて、11月2日にMSCスブレンディグが寄港した際に、移住相談コーナーを設置しましたが、結果的には相談は1件も無く素通りされてしまいました。

 ジャパネットが募集したツアーでしたので、乗客は情報感度が高いと思いますので、次回は「秋田に住んでみませんか!」とか「古民家が安い!」とかのキャチフレージを掲示して、興味を持ってもらい相談に繫がるようなコーナーにして、移住に結び付けたいと考えております。

(文責:秋田人変身力会議 事務局長 永井 健)