3月20日に協働大町ビルで山崎宗雄氏(元秋田朝日放送シニアプロデューサー)をプレゼンテーターにお迎えして、フォーラム「秋田を変身させるためにー人口減を考える」を開催しました。
以下は山崎氏のプレゼンテーションの要旨です。
1.はじめに
40年間、秋田の政治、経済、文化を取材してきた者として、感じていることを私論として問題提起させてもらいます。
人口減少は秋田だけではなく全国的な難しい問題で、解決の糸口がなかなか見つからないですが、問題提起として3つのことをお話し致します。
一つ目は、人口減少を私達はリアルな数字で考えているのかということです。
二つ目は2040年代を考えても秋田県全体の人口減少率と秋田市の減少率は
かなり違いがありますので、秋田市が果して人口のダムになれるのかです。
三つ目は地方選挙での無投票当選と地方議会の役割についてです。
2.人口減少の意味
2年前に佐竹知事が当選直後の記者会見で、県民は人口減少を余り気にしていない、気にしているのはマスコミだけだとおっしゃいました。私は知事の発言としては問題があると思いますが、全面的に否定する気はありません。
と言いますのは、私達は日常の中で人口減少を真剣に論議しているとは思えないからです。それには様々な要因があると思いますが、私は二つのことを取り上げたいと思います。
一つは作家の吉行淳之介さんが「麻雀に負けない方法」で書いていたことです。麻雀で満貫を振込むと5千点棒と千点棒3本を払います。云わば点棒という記号が移動するだけですので、それでは痛みを感じじらい訳です。
しかし、千点10円の時代で煙草のハイライト1個が80円でしたから、満貫を振込むとハイライト1個分とリアルに考えることによって色々と見えてくる問題があるのではないかということです。
つまり毎年、今年も人口が1万人減りました、百万人を切りました、2040年には70万人を切りますと言ってるだけでは、麻雀に例えれば聴牌もしないで箱点に近い状況にあるのではないかと思います。1万人とは言っても麻雀と同じでリアルな数字で語っていない、人口が1万人減るということは、ハイライト1個分に相当するのは何かということです。
佐竹知事が就任以降10年間で秋田県の人口は10万人以上減りましたが、この数字は県内第二の都市である横手市の人口と略同じですから、横手市が無くなってしまったとリアルに考える必要があるのではないでしょうか。
秋田県の一人当たりの消費金額は120万円と推定されますから、人口が1万人減るということは、個人消費が年間100億円減るということで、かなりリアルな数字です。
この10年間で秋田県経済は多分1千5百億円以上の個人消費を失っている訳です。
年間100億円の個人消費が減少するということは、例えば零細な小売店、飲食店、工務店等を営む県民にとってどれ程大きな打撃になっているかということです。
秋田市の商業センサスによりますと秋田市の小売業の売上高は1兆5千億円、うち中小小売店が3千5百億円で1店舗当たりの平均売上高は1億2千万円ですので、年間100億円の個人消費額の減少は80軒分の売上が消えたということです。
事実この調査では秋田市の小売店は5年間で1割減っています。
人口が年間1万人減少するということは、小売りやサービス業の売上が年々100億円下がっていくということですから、吉行淳之助風に言うとハイライト1個分を振込みたくないと、考えるようになることが必要だと思います。
もう一つは秋田市の問題です。秋田市はここ数年こそ人口減少トレンドに入っていますが、秋田県は1950年台から人口減少が一途の中で、秋田市だけは人口が増加してきた歴史があります。
秋田市は国の出先機関、県庁、銀行・マスコミ等の本社が立地しており、そこの職員は人口の減少していない秋田市に住んでおりますので、人口減少問題を論じている県庁や銀行、マスコミ等の職員は、そのことをリアルに肌で感じていないのではないかということです。
新しいマンションが建っている、大型ショピングセンターの出店も計画されているので、人口減による売上減少は秋田市以外の地方で大きく影響しているのではないかと思います。
先日にかほ市で講演した時に市役所の方が、昨年の出生数が100人を切ってしまったが、小学校が3校あるので今後どうしたらよいかと嘆いておられました。
少子化は秋田市でも進行しておりますが、地方の深刻さは秋田市の比ではなく、若年層の減少がリアルに住民生活に影響を与えております。
取材で過疎地と呼ばれる鎌鼬美術館のある羽後町の田代、動画コンクールを開催している藤里町、アートプロジェクトの上小阿仁村八木沢に行きました。
特に上小阿仁村には日本で最後と思われる活版印刷の新聞社があったので、その取材で何回も足を運びましたが、その企画書を書き直す度に人口が減っていました。まるで高速道路を運転する軽自動車の油量計のように、どんどん目に見えて減ってました。最初に書いた2013年には2,700人でしたが、2015年には2,400人を切ってしまう等加速度的に減少していました。
五城目町も同じで2013年には1万人だった人口がその後の5年間で1割減っております。そこが秋田市に住んでいる人と秋田市以外に住んでいる人とでは、人口減に対する肌感覚の違いがあるのではないかと、全県を取材していて感じる訳です。
肌感覚でリアルに人口減を感じていない秋田市民が、人口減を余り気にしていないというのは、正に佐竹知事がおっしゃった通りだと思いますので、知事が話していた人口減をそれ程気にしていないのは、県民ではなくて秋田市民ではないかと考えております。
3.人口のダムとしての秋田市の課題
秋田市が人口のダムにならなければ、秋田県全体の人口減少を食い止めることは出来ないと考えております。
昭和5年の秋田県の人口は100万人でしたが、その時の秋田市の人口は5万人でした。その後昭和16年に土崎港町、新屋町他を編入し20年台には10万人に増加、29・30年には周辺13村を編入し30年代には20万人台、平成に入って30万人台となり、平成17年に河辺・雄和を編入して33万3千人のピークを迎えました。
合併に次ぐ合併でしたが、昭和5年から90年近くで秋田市の人口は6倍に増えましたが、秋田県の人口は昭和31年に135万人のピークを付けた後、一時的に持ち直した年もありましたが、昭和57年からは一貫して減少しており、昨年末には97万8千人とピーク時比37万人余(27%)の減少となっております。
秋田市の人口30万7千人に対して県の人口は97万8千人ですからその占める割合は31%と一極集中都市(プライメイトシティ)ということになります。
第二の都市の横手市の人口が9万人ですから第二の都市の3.4倍の人口を抱えておりますが、これは先ほど言いましたように国の出先機関、県庁、金融機関及びマスコミ等の本社機能さらには鉄道、港湾、空港と交通インフラも整っていますから当然の事だと考えます。
だから私論ですが秋田市民は秋田市も人口減少トレンドに入っているにも関わらず、人口減少への危機感が薄いのではないかと思っております。2040年には23万5千人になると推計されておりますが、秋田県全体の人口減少を喰い止めるためには、プライメイトシティである秋田市の人口減少をどう食い止めるかに掛かっていると思います。
秋田市に求められるのは、戦略的拠点都市として県内の地方から県外に流失する人をも秋田市で食い止めるための人口のダム機能です。
そのためには何が必要かということですが、先日の新聞に秋田大学・県立大学と県で構成する「県大学振興・若者雇用創出推進会議」が申請した「地方大学・地域産業創生交付金」活用計画が不採択となったので、2019年度に修正して再申請すると報じられておりました。
不採択の理由としては、育成した学生が県内就職する流れが具体化されていないとの指摘があったとのことでした。
この交付金は東京一極集中を是正するために、地方での産学官連携を支援することを目的に設けられたものですが、課題は産業の芽となる研究開発機能を国の補助を得ながらどのように創出し、地方で学び地方で働くという人材の循環をどう創っていくかということだと思います。
それを担えるのは大学が集中している秋田市に限られるのではないかと思います。秋田県の人口分布のなかで20歳~24歳のゾーンは秋田市以外の地方では極端に減っておりますが、秋田市はそれ程減っておりません。
これは地方からの若い世代の人口流失を、秋田市がある程度食い止めるダム機能を果しているからではないかと考えております。私はここが最も大事なことだと思っております。
次に地方から東京に出て行って高度成長を支えた人達が、2025年以降は全て後期高齢者となり、大規模団地が全部高齢化するといった阿鼻叫喚の事態が予想されます。
このため秋田の若い介護人材が東京に吸い上げられる危機が迫っているように思います。働く側からすれば給与等の労働条件が良ければ、当然のように東京に就職すると思うからです。
そのような事態になれば秋田も同じように高齢者が増える訳ですから、介護人材が不足して、秋田の高齢者にとっても阿鼻叫喚の事態となります。
このような事態を避けるためには発想の転換で、都会の元気な高齢者を地方に移住させる、いわゆるCCRC(継続的なケア付きの高齢者共同体)構想を推進することが大事だと思います。
地方には高齢者を迎えて雇用が創出されますが、一方では移住した高齢者が介護保険を利用するようになれば、介護財政を圧迫するのではないかとの意見もあります。
しかし、厚労省では高齢者100人の移住で年間1億8千万円以上の消費を見込んでおり、特養に入るのは100名のうち3名程度と試算しておりますので、介護財政の圧迫もCCRC構想で引き起されることは無いと考えております。
4.被選挙権の危機
筑紫哲也さんが2001年に「政治参加する七つの方法」という新書を出版しておりますが、その中で元秋田美術短大学長であった石川好さんがマスコミは選挙に行こう、棄権はダメだと言いますが、選挙に出ようとは言わないと書いています。
選挙に新人が出ないので無投票の当選が増えている。これが政治の固定化を招き、有権者の諦め・諦観に繫がっていると考えます。これが被選挙権の危機だと思いますので、そこで何が問題なのかをお話しします。
日本創生会議が2014年に発表した消滅可能性都市は衝撃でしたね。そこで消滅可能性が高い上位100市町村のうち52市町村の直近の首町選挙が、無投票であることが解りました。
つまり地方の衰退は民主主義の基本である選挙にも影響を及ぼしているということです。しかも52市町村のうち半数の26市町村が2回連続無投票であることも解りました。選挙で民意を問う経験をしていない首長が多いということで、ここが消滅の可能性が高い自治体ということです。
秋田県でも前々回知事選を無投票にしてしまった。良く言うのですが「争いは避けるべきだ」と、手腕に定評のある現職を推薦して何が悪いのかという意見があるのですが、皮肉にも再選された記事の横に、県内の地価15年連続下落との記事もありました。
増田寛也さんの評価は毀誉褒貶色々あると思いますが、増田さんは「消滅可能性の高い都市で無投票が多いのは自治力の低下を示しており、リーダーを選ぶ時には複数の候補が大きな方向性を示してお互いに競い合わなければ、地域の活力の芽が出て来ない、無投票が近づけば危機が他人事になる。無力化だと地域の沈滞を招いて、その地域がより消滅に近づく」とおっしゃっております。
この後、増田さんは東京都知事選に出て小池さんと争って負けた訳ですが、ここでおっしゃっていることは、間違いないことだと思います。
4月7日に県議選がありますが、前回は14選挙区のうち5選挙区が無投票でしたが、今回は8選挙区で無投票の可能性がありますので、ここでは被選挙権が使われていないことになります。
前回の統一地方選での有権者の声として「社会保障を充実させる実行力のある候補とか雇用の場の創出を期待している」等が新聞に掲載されておりましたが、有権者に執行機関である行政と議決機関である議会・議員の役割に誤解があるように感じました。
議員の選挙で「秋田を元気にします、雇用を増やすます」とかスーパーの安売りチラシのような公約を並べる候補もいますが、結果として何も出来なかったということは、議会と執行部の役割を間違って認識しているので、そのようなことを引き起こしているのではないかと思いますし、民主主義が未熟であることを感じざるを得ません。
地方議会の役割としては、予算の監視と条例の立案という政策がありますが、県議会での条例の議員提案は2010年以降7件しかなく、それも日本酒で乾杯条例のような提案でしたし、予算案の修正及び否決はゼロでした。
仙台市の人口は108万人で市議会の議員定数は55人でうち人口が30万人の青葉区の議員定数は13人です。
秋田県と仙台市の人口は略100万人としてその議員数は仙台市55人に対して秋田県の地方議員数は479名と略8倍ですし、秋田市と仙台市青葉区の人口は略30万人ですが、その市議会議員数は青葉区13人に対して秋田市は39人(4月以降は36名)となっております。
もちろん地方自治は最大限重視されなければならないと思いますし、どんなに人口が少なくてもそこに議員は必要ですが、これだけ人口が減少して来ているのですから、仙台市の議員数と秋田県の地方議員数を比較すると、議員1人当たりの人口数をそろそろ考えてもいいのではないかと思います。
現状の秋田市議の年収はおよそ980万円、これに政務調査費及び視察旅費を足すと1千万円を超えます。秋田市の当初予算は2,370億円ですがこれをチェックする市議会議員に総額およそ4億円支払っております。
議会というのは一つの町を動かしてゆくうえで必要なコストだと私は思っておりますので、議員の皆さんにはコストに見合った活動をして頂きたいと願っております。
そのような議員活動行うことで秋田市が踏ん張り、秋田市が人口のダムととなることで秋田県全体の人口減少に対して、一つの歯止めにはなるのではないかと考えております。
(文責:秋田人変身力会議 事務局長 永井 健)