6月13日に秋田ビューホテルで椎川忍氏(地域活性化センター理事長)を
講師にお迎えして、第66回変身力研究会「地方創生―成果と課題」をテーマに講演会を開催しました。
以下は椎川理事長の講演要旨です。
- はじめに
世の中には成功のバターンは無いと言われております。失敗のパターンは必ず有ります。これは経営学で言われていることです。他の地域で上手く行っているからそれを秋田でやっても絶対成功する訳はありません。
成功とは偶然の人の結び付きとか、資源の結び付きで起こることが多いです。
失敗のパターンはある程度あります。全く経営計画を立ててないとか、資金計画が出来てないとか、人の意見を聴かないとか、住民の意見を聴かずに箱物を作ったとかがあります。
ですから失敗しないように最低限のリスクをヘッジすることは出来ますが、こうやったら成功するとのパターンはないので、自分達で考えて徹底的に本気でやることです。ということで、本日は本気でやるということをテーマに話してみたいと思います。
- 成功するための法則
私が本気で取り組んで成功した事例がありますので話してみます。本気で続けて取り組まなければ成功しません
例えば鹿児島県鹿屋市串良町柳谷(やなだん)です。人口300人の集落ですが人口減を克服し、地域産業おこし、青少年の健全育成、ピンピンコロリも達成した地域ですが、私はそこに10年通っております。
年2回全国から60人位の塾生が来て4日間の塾を開催しておりますが、そこの講師として7期から直近の25期まで全て参加しております。
都合で欠席という選択肢もありますが、私は続けることを優先して全て出席しております。
山伏修業を6年やっております。毎年1週間、山に籠っての修行ですが、毎年感じることが違ってきますので続けております。5回修業すると先達になるから止める方もおりますし、1回で来なくなる方も沢山おります。
山伏とはどういうことかと考えながら、白露の装束で毎年5回位講演しておりますが、それは山伏として死ぬことだという考えに至りました。ということは死ぬまで修行だということです。
毎年同じ時期に修行してますが、私としては1回休めば山伏でないとの決意のもとに、本気で山伏修行を続けておりますが、今一番本気で取り組んでいるのは人材育成です。
- 人材育成
私のやっている人材育成は専門性を身に着けた人材の育成ではなく、横に人と地域を繋ぐ人材の育成です。我が国は太古の昔から縦社会で能力を発揮する人材を育ててきましたが、今求められているのは、地域で横に結びついて地域の困りごとを解決する等のイノベーションを起こす人達、そういう人材を育てたいと活動しております。
私は地方財政の専門家ですが、公正公平な地方交付税の配分等は誰でも出来ることだと思っておりますので、役所を退職後は私の経験を若い人に伝えて、横に人と地域を繋ぐ人材を育てたいと考えて本気で活動しております。
関東大震災後に内務大臣兼帝都復興院総裁や東京市長等を歴任した後藤新平の「金を残すは下策、仕事を残すは中策、人を残すは上策」との言葉がありますが、この言葉が私の人生観に繫がっております。
人生は終わりに近づくほど重要です。極端に言うと死ぬ日が一番大事です。死ぬ日に自分が幸せな人生だったと思える人が幸せな人です。40歳で社長になろうが、総理になろうが、死ぬ日に自分の人生は駄目だった思う方は不幸な人です。
- 私の自負できる仕事
私が本気で取り組み出来たと自負出来る仕事としては、30歳台に国産の救急ヘリを開発し、救急業務の定義規程に関する消防法の改正や国際消防救助隊を創設したことです。これらの業務を遂行するためにFEMA(米国緊急事態管理庁)に在外研究員として派遣されました。
40歳台では島根県に総務部長として出向し、県立大学の開設したことです。大学の開設では学長人事が最重要課題ですが、当時島根県に縁のある何人かの東京の有名大学の学長に声を掛けましにたが、成蹊大学の学長を務めていた現代中国史の宇野重明先生が、理想の大学を創ることが出来るならと応じてくれました。このため5億円の北東アジア研究基金を作りました。
自治大学校の校長の時に大学校の経営改革を行いました。当時の寺田秋田県知事から県庁の職員は大卒が多いので、大学院大学にしたら職員を研修に参加させますとの要望があったので、1年間の研修期間中に自治大学校と一橋大学及び政策大学院大学の修士課程を卒業するダブルスクール制にし、自治大学校を抜本的に改革しました。
次に定住自立圏構想の制度化と地域おこし協力隊の創設です。当時の福田首相、増田大臣から地方に定住する人を増やすために、定住自立圏構想を制度化してくれとの指示があったので制度化しましたが、制度化しただけで地方に人が増えるとの確信がなかったので、各方面の方から意見を聴き3年間の所得を補償するので、お試しに地方に移住する制度として「地域おこし協力隊」を創設しました。
民主党政権下ではあるものを活かす地域力創造を目的とした「緑の分権改革」を政策立案しました。安倍政権下でも地域経済循環創造事業として引き継がれております。
- 内発的発展と外発的発展
日本は鎖国、明治維新と第二次世界大戦の敗戦で非常に歪んだ国になった。明
治維新はすばらしいことだけど影は知らない。明治150年の影を見なければいけないのではないか。これから日本が成熟社会になって何処に向かっていくべきかと考えた時に、経済中心の欧米へのキャッチアップだけをやってきたからこんな国になったのではないでしょうか。
だから地方移住が進まないのではないでしょうか。地方創生の目標を達成出来ないから総合戦略を立て直すとか言ってますが、根本が違うのではないでしょうか。
政策やお金だけで人間は動きません。子供の教育だと思います。20年掛かっても一本化していた価値観を多様化して、それを受容する社会を作らなければ一極集中は直らないと思っております。
いくらお金を配っても、お金中心だから田舎に住んでもつまらない、農業をやってもつまらない、都会の会社に入って高いサラリーを貰って良い生活をしなさいと親は言ってきました。そう言って子供を都会に出してそういう価値観を子供に植え付けてきたのだから、それを直さない限り一極集中は是正出来ないと思っております。
ところがヨーロッパでは出来ています。農業はすばらしい仕事だよ、自然と共生してゆったりと子供を育て、都会であくせく働からなくても良いという考え方が浸透しているからです。
日本の社会では農村も地方も都会になろうとしています。皆な都会人になろうとした。これが価値観の一本化であり、明治維新の考え方、福沢諭吉が言う「脱亜入欧」の考え方なのです。そうしなければ欧米の植民地になっていたので、当時としてはやむを得ない考え方であった訳ですが,その反省が150年間出来なかったので、自分で植民地を造り戦争をして原爆を二つ落とされてペチャンコになってしまった。
そこからまたゼロから経済でキャッチアップしなければならない。凄く優秀で勤勉な国民だからキャッチアップし、世界第二の経済大国になりました。
しかし、その影とはなんだったのかを考える必要があると思っていましたが、内発的発展という考え方が日本では常に後ろに追いやられていました。
外発的発展つまり企業誘致やれば良い、住宅団地を造れば良い、政府の機関を誘致すれば良い、原発を造れば良いとやってきました。
自分達の地域に有ったものを先ずしっかり守って、そのうえで企業誘致が成功すれば万々歳ですが、本当に万々歳でしょうか。30年もすれば出ていくのではないでしょうか。
大規模店舗はどうでしたか。出店した時は良いけれども中心市街地をシャッター通りにして、売上が落ちたら出て行きます。再開発ビルが空っぽになることが世の中に沢山あります。
だから自分達の地域にあるものを先ず大切にして、その上で外発的な物を求めなければいけないのに、有る物を活かす地域力創造を忘れてしまいました。
外の力でなんとかなるよと、そんなことを目指して来た国ということになります。
- 地方創生への取組
平成26年に地方創生大臣になった石破さんに呼ばれたので、地方創生について意見具申しました。
今まで地域活性化をやらなかった政権はありませんでした。過疎、過密から始まって何十兆円もの資金を地方に投入しましたがこの状態ですので、何かが間違っていたと思いましたので、最大の間違いは人を育てなかったことだと申し上げました。
派手な事業にはお金を投入しますが、人材の育成には国も地方もお金を使わなかった。地方の首長さんに会ってお話しをすると人材育成に関心があるかどうかはすぐ解りますが、人材育成には20年掛かりますので、任期4年の首長に期待するのは無理かも知れませんが、一番重要なことですので注力してもらいたいと具申して「地方創生カレッジ」を創設してもらいました。
地方創生に関する講座を160ほど開設しており、全てeラーニングで学べますが、受講者が予想したより少ないです。勉強のツールを国が提供したのに受講者が少ないのは、受講する地方の側に問題があると思います。
私も5本ほど作っておりますが、地方創生の本当の意味を知りたければ、次の2本を見て頂けば理解できると思います。「行政に頼らないむらづくり・やねだん」と「あるものを生かす地域力創造」です。
20年前に地方創生に気付いて取り組んで成功している「やねだん」を見て頂ければ、全て解りますのでぜひご覧になって下さい。
- 地域活性化センターについて
地域活性化センターについて少しばかりお話しします。私は平成25年にセンターの常務理事になり、翌年に理事長になりましたが本気で人材育成に取組んだら職員が39名から5年で2.2倍の87名になりました。他では勉強出来ないことがセンターでは出来るということで、例えばNPO、民間企業、マスコミのインターン、政策研究大学院大学の夏期講習、自治大学校、市町村アカデミー等
での研修が受けられることから自治体からの派遣者が増えたからです。
現状、横にどんどん知識や人脈を広げていく人材を育てる場所がほとんど無いので、小さな自治体では無理なので共同でやりましょうと県の町村会等に呼び掛けております。
各県にも市町村職員の人材育成をセンターと一緒にやりましょうと呼びかけておりますが、県は全く乗ってきません。
今の県庁は中間管理機構になってしまって、現場に出て行くお金も時間もなくなっているので、現場の意見を聴いて政策を作っていくということが少なくなっているのではないでしょうか。
本気でやれば出来ることがいっぱいあります。センターは毎年5千万円の赤字を出していました。これでは15年位したら基金を食い潰して無くなってしまうと考えて、赤字ゼロを目指して本気で取組んだら地方創生の追い風もありましたが3千万円程度の黒字に転換しました。
- 地方創生の本質
地方創生の本質を解っていない人が多いということは、市町村・行政止まりになっているからです。一番大事な国民意識の改革が出来ていないからです。国はもっとそこに力を入れるべきだと考えております。
国は法律を作り交付金制度を作ったので、後は地方の責任としておりますが、もっと大事な国民意識の改革・教育の改革を国がしなければならないと思います。
教育の改革はグローバルな経済戦争に勝ち抜く人材を育てるだけではなく、地域守る人材をどう育てるかをもっとやらなければならないと思いますので、そういう意味ではピントがちょっとぼけていると思います。
だから自治体は国の政策を活用して、自分達がやらなければならないことをしっかり見据えて、本気になって考えて自分達でやれば良いのです。
地方創生の基本法は「まち・ひと・しごと創生法」ですが、ひとの育成には何をやったのかと考えて、平成26年からセンターで取組んでいるのです。
ひとの育成に取組まなかったからGDPが600兆円になろうとしているのに、人口が減少しているのは、人類の歴史上あり得なかったことです。食料の生産増、例えば江戸時代の新田開発や産業革命後には人口が増えたのに、5Gとか情報化
革命が言われているのに、このまま行けば2100年頃の日本の人口は江戸時代に
戻ってしまうと予想されております。
現状の出生率が続けば400年後には、日本民族は滅亡すると云われておりますが、日本は無くなりませんので外国人が経営することになるでしょう。だから移民の話が出てくるのです。
政府が移民政策では無いと言っていますが、人口が7千~8千万人になれば、労働力不足から移民無しでは現状の生活水準を維持するのが難しいと思われますから、そういう意味でもう少し単一民族で頑張りましょうという政策が、地方創生なのです。
このことを今の中学生が理解しなければ駄目でしょう。秋田県の市町村別の将来人口推計があると思いますが、それぞれの市町村の中学生がこのことを理解しないと日本民族は滅亡してしまいます。
30年後には日本の人口は1億人を割っておりますが、会場の皆さんでその頃生きている方は少ないと思いますが、30年後に苦しむのは今の中高生ですので、地方創生の戦略を立てる際は、中高生の意見を聴くべきだと思いますし、そういうことをやっている自治体もあります。
地方創生の戦略を審議する場が、従来通り地域の名士を集めたお墨付を与えるだけの会議であれば、実効性のある政策は出来ないと思います。何故なら県民の意識が変わらないからです。そういう事を私は地方創生が始まった26年からの言い続けております。このことは人間の生き方に関わっているからです。
高学歴、高所得になれば人口は減り続けるという現象は、世界中に起きていますが、フランスみたいに克服した国もあります。フランスやアメリカは移民の出生率が高いということも有りますが、それはそれで色々と問題を抱えていることも事実です。
地方創生の柱として生産人口・子育て世代の取り合いが起きています。政府
は出生率を上げるために、消費税の一部を子育て世代に配分し、出生率の低い東京から地方に移住して悠々と子育てしましょうとの政策を決定しました。
地方は出生率を上げると共に人口の社会増減をゼロにするかプラスにすることが出来る訳ですが、これが取り合いになっております。
地方創生は基盤が出来ていなければ出来ません。基盤とは自立する住民です。
本当の意味での住民協働が出来ていて、人材育成の仕組みが出来ている地域、若者の力を引き出し地域経済の循環構造が出来ている地域でなければ出来ないと考えています。
消費税増税でプレミアム商品券が計画されておりますが、地域経済の循環構造が出来ていなければ、地域で使われずにザルに水の如く中央に吸い取られるでしょう。
日本経済も同じような構造でした。輸出で外貨を獲得しその外貨で石油を輸入して電気を造っていましたが、原発の破綻や環境問題から太陽光発電が推奨され我が家でも設置しましたが、中央資本が設置するメガソーラーは地域経済には何も貢献しておりません。
ゼロ金利の時代ですからファンドを組成して、地域からお金を集めてメガソーラーを設置することが地域のためです。
- 社会減を克服した事例
社会減を克服した事例については「ひと・まち・しごと創生本部」や当センターでも研究し色々なことが解りましたので、紹介いたします。
創生本部では8団体選定しましたがその中で、余り有名でない市町村を例えば北海道のオホーツク海に面した西興部村(にしおこっべ村人口1,116名)ですが、持家奨励と子供の医療費無料化で人口はほぼ横ばいを維持しております。
同じ北海道のニセコ町は有名ですが、私も今年行きましたが外国人で賑わっており、日本語が通じない店もありましたので、お金が何処へ行っているかを
考えなければなりませんが、社会増にはなっております。
聞いたことのない村ですが、鳥取県の西粟倉村(1,477名)は、IT林業に取組み関西圏に近いこともあり、若者の移住で社会増になっています。
小さい自治体だから出来ているのでしょうとの意見もありますが、小さい処が出来なければ、大きい処が出来る訳がありません。細胞が元気に活動していないのに身体が元気になる訳がありません。
社会増を考えた時には当然のことですが、付加価値を生む所が近くになければなりません。その他に金融所得とか仕送り所得、年金所得がありますが、子育て世代は付加価値拠点が2時間圏内になければ生活出来ません。
何故こんなところが社会増なのかということが大事なのです。ベットタウンを造れば出来るでしょうと云いますが、出来てないところもあります。
それからバランス型と云って広島市とか岡山市とか全てがある所は色々と遣り様がありますが、遣り様が無いところが例えば北海道の鶴居村ですが、社会増になっていますので紹介します。
同村は冬に丹頂鶴が飛来しますのでその観察のために訪れる外国人が多く、そこで農家民泊をやっている女性の話として、ここで3カ月働かせてくれないかとの依頼もあるそうです。ちなみに日本人はほとんど来ないそうです。
島根県の海士町(あまちょう)ですが、引退したNTT職員だった山内前町長は議員になり町長になって本気でやりました。最初は自分の給与を3割カット、職員1割カットで頑張りましたが、住民が全然動かないので5割カットしたら、職員も私達も3割カットして下さいとの申し出があったので、そうしたところ
住民から「役場職員は細かいことで動かないで良いから、所得が増えるような、移住者が増えるような課題に注力して欲しい」と申出があったとのことです。役場の本気度が住民に伝わったという事でしょう。
海士町の隣にある知夫村(ちぶりむら人口600名)は、牛が2,500頭放牧されていますので稼ぎ口はあります。牛は生きたまま東京に運びます。隠岐牛と呼ばれているそうですが、島に屠殺場が無いので出雲に持って行って屠殺すると島根和牛と呼ばれるので、東京に直送し品川で賭殺していますが、松坂牛より高い値が付くそうです。
この牛の放牧は村の土建屋が公共事業の先行きに見切りをつけて「潮風ファーム」を立ち上げてやっております。
島根県では邑南町(おうなんちょう)も有名ですが、ここで特筆すべきことは全ての集落が社会増になっていることです。集落の人口分析をして目標設定する際に、住民が自分達の集落はどうしたら良いかを話し合って努力したからです。細胞が元気になれば身体も元気になります。
以上のように小さい町村が多いですが、小さいほど本気になり易いし、成果も出易いということでしょう。
残念ながら秋田県は一つもありませんが、藤里町がちょっといい線を行っている感じです。秋田市等の大きな都市で無く藤里で上手く行っている要因は「お金」でやっていないからだと思います。
小さな自治体はお金で勝負してはいけないんです。お金で勝負したら負けるに決まっているからです。お金じゃない自分達の土俵を構えてやるということです。その土俵が何なのかを突き詰めて考えて本気でやるということです。
以 上