第64回変身力研究会報告/大曲の花火は、なぜ  世界一といわれるのか?

2月20日に秋田ビューホテルで小西亨一郎氏(花火研究家)を講師にお迎えして、
「大曲の花火はなぜ世界一といわれるのか?~その理由と経済効果、そして将来性~」をテーマに第64回変身力研究会を開催しました。

従来は講演を録音し文章化しておりましたが、今回は会場側の手違いから録音出来なかったので、
2月22日の魁紙に掲載された記事をそのまま引用して、報告に替えますことをお許し下さい。

秋田人変身力会議の研究会が20日、秋田市の秋田ビューホテルで開かれた。
カネトク卸総合センター(大仙市)の小西亨一郎社長(58)が講演。
全国花火競技大会(大曲の花火)の特色や経済効果などを解説し、
地域資源としての重要性を指摘した。

小西社長は酒類の卸売業を経営する傍ら、大曲の花火や全国各地の大会の魅力や歴史を研究している。
講演では「大曲の花火は昼花火や創造花火など総合的に楽しめる。出場する花火師の技術も極めて高い」と、他の大会との違いを紹介した。

シンクタンクが試算した155億円の経済波及効果や、毎年70万人超の来場者数(主催者発表)を示し
「宿泊施設や飲食店、会場設営の工事業者など幅広い分野に恩恵があるイベントだ」と話した。

近年は夏以外にも大会を行ったり、花火伝統文化継承資料館「はなび・アム」が開館したりと新たな取り組みが進んだとし、
「今後、ますます花火の街としての特色が出てほしい」と期待した。

研究会は、同会議が2008年から年6回程度開いており64回目。
企業経営者などの会員ら約50人が参加した。

(村田悠輔)

新年のご挨拶(著)秋田人変身力会議 会長 荒谷紘毅

2019年1月1日
秋田人変身力会議 会長 荒谷紘毅

 新年おめでとうございます。2008年7月に発足した当会も早いもので今年11回目の新年を迎えました。年6回ペースの研究会兼飲み会も63回を数え、ここまで続けてこられたのもひとえに会員の皆様のご協力のお陰だと感謝しております。

昨年も世界がトランプ大統領に振り回された一年でした。北朝鮮とのチキンレースで緊張を煽り、イージスアショアやF35ステルス戦闘機を日本に押し売りし、見事な営業手腕を発揮した挙句、六月には意表を突く金正恩委員長との会談で北朝鮮の非核化への道筋をつけるなど、まったく想定のできない行動をとる米国大統領には、今年もロシア疑惑を引きずったまま、中国との貿易摩擦、中東政策や移民対策など難問を抱えており、目を離せない状態が続くことでしょう。

国内的には自然災害の多発した年でもあり、北海道では全道停電というブラックアウトが発生、年末には大規模な通信障害も起こり、ITに依存した社会の弱点が露になりました。想定される南海トラフや首都圏直下型地震を考えると、オリンピックや万博に浮かれていて大丈夫かいなと不安です。

セクハラ、パワハラ、モラハラも多発し、多くのリーダーの首が飛んだ年でもありました。日産自動車のカリスマ経営者の逮捕も世界に衝撃を与えましたが、単なる経済事件として終わるわけにはいかないでしょう。

秋田では金農旋風や、秋田犬のブレイク、なまはげの無形文化遺産登録などが県民に元気を与えましたが、足元では少子高齢化と人口減少が全国一のペースで進んでおり、県を始めとする全自治体の重い課題として残っています。首長や議員の真価が問われる年になりそうです。

変身力会議は今年も会員のみならず、地域の変身のきっかけとなるような催しを続けていきたいと思います。会員の皆様には本年も変わらぬご厚誼、ご協力をお願いいたします。

                                     以 上

第63回変身力研究会報告/秋田県におけるクルーズ振興の取組について


 11月9日に協働大町ビルで白井正興氏(秋田県建設部港湾技監)を講師にお迎えして、「秋田県におけるクルーズ振興の取組について」をテーマに第63回変身力研究会を開催しました。以下は講演の要旨です。

  1. はじめに

  私はご紹介にありましたように国土交通省に入省後、本省及び関東、九州、四国、フィリピンに勤務しておりましたので、東京以北勤務は初めてで、秋田での勤務は1年半になりました。

  荒谷会長のご挨拶にありましたように、秋田への観光客数は東北でも最下位ですが、そういう意味では伸び代があると思ってますし、クルーズ船寄港についても伸び代があると考えております。

  観光では宿泊の経済効果が大きいですが、クルーズは朝着いて夕方に出航しますので、宿泊には結び付きませんが、大型船になると3千人以上が乗船しておりますので、日中に観光して頂き、より多く県内で消費してもらうためにはどうしたら良いかを、県民の皆様と一緒に考えてたいと思っております。

  本日は「クルーズの潮流」「秋田に来ているクルーズ船」「クルーズ船誘致への取組み」「クルーズ列車への取組み」「秋田港の将来計画」の順でお話し致します。

  1. クルーズの潮流

  クルーズ旅行の感覚は、一昔前にはクイーンエリザベスやタイタニック等の豪華船に乗ってのお金持ちの優雅な船旅というイメージでしたが、最近は安い価格帯では長距離移動・宿泊・食事代込みで一泊2万円代もあるので、お得な旅行という感じではないでしょうか。

最近秋田港に寄港したMSスプレンディダは、テレビショッピングのジャパネットたかたが販売しており、庶民でも手が届く手頃な価格帯ということでしょう。

 このため我が国に寄港するクルーズ船も一泊5万円以上の高価格帯船の割合が11%と低下しているのに対して、1泊25千円以上の中価格帯が44%、1泊1万円前後の低価格帯が45%と上昇してきております。

 世界のクルーズ人口は年々増加しており、2009年の17.8百万人に対して2017年は26.7百万と8年間で1.5倍となっております。増加の要因は経済成長が著しい中国人の利用が急増していることです。

 クルーズ人口の増勢を背景にクルーズ船の建造も増加しており、2016年以降9万トン以上の大型船が7~9艘就航しております。秋田港への寄港の問合せがある16万トン級の大型船の建造費は1千億円超で乗客定員は井川町程度の4千5百人です。

我が国最大のクルーズ船は飛鳥Ⅱで5万トン、定員872名ですので最近の外国籍のクルーズ船がいかに大型化しているかが解ります。

 クルーズ人口の地域別構成比は、カリブ海クルーズが盛んな北米が49%、地中海クルーズの欧州が24%ですが、アジアは15%に止まっております。

 アジアのクルーズ人口は中国59%、台湾9%、香港6%と中国系が大半を占めており、日本は僅か7%と少ないです。中国人クルーズ客は年平均76%伸びていますが、そのほとんどがアジアクルーズで、その中でも約5日間の日本、韓国向けのクルーズが大半です。

 2百万人を突破した中国人クルーズ客の平均年齢は45歳、約5日間のアジアクルーズが中心ですが、日本人は57歳で約6~7日間の地中海等海外クルーズが大半です。

 2017年のアジアの港湾へのクルーズ船の国別寄港回数は6,793回でうち35%は日本ですが、上位5港は博多、長崎、那覇、横浜、石垣と発着が多い横浜を除くと九州、沖縄の4港です。

 これは上海発着で5日間の買い物、南国リゾートクルーズの日程を考慮すると九州、沖縄が限度で、日本海の主要港に寄港して秋田まで来るには10日程度を要するからです。このため秋田港に寄港するクルーズ船には中国人の乗客は少ないです。

 しかし九州、沖縄では飽き足りない中国人が、日本海側の文化体験を目的に、人気の高い北海道訪問を兼ねて秋田に上陸することを期待しておりますし、秋田の魅力を発信し続けたいと考えております。

 また、観光大国のフランスへの一番多い観光客は隣国のイギリスということですので、そういう意味でも中国、韓国、国交正常化後の北朝鮮、ロシア等の隣国からの来訪を働き掛けたいと考えております。

  1. 秋田に来ているクルーズ船

  秋田港への寄港回数は、2017年内航クルーズ船9艘、外航船9艘の計18艘、18年は内航11艘、外航7艘の計18艘、19年は内航11艘、外航16艘の計27艘が見込まれる等年々増加しております。

  また、ダイヤモンドプリンセス(11万トン)、MSCスプレンディダ(13万トン)等の大型船も今年寄港しており、19年はクイーンエリザベス(9万トン)等の有名船も寄港予定です。

 なお寄港時には歓迎イベントとして、なまはげ太鼓、小町娘、秋田犬、竿灯、秋田民謡の踊りを披露するとともに、きりたんぽの振る舞いや着物の試着等も行っています。

 見送りイベントとしては、市民吹奏楽団による演奏、踊りや岸壁からの旗やサイリウムを振ってのお見送りを行っています。

  また、初寄港船の出航時には大曲の花火を打ち上げて見送りしています。

  1. クルーズ船誘致への取り組み

  クルーズ船寄港への誘致活動をご紹介します。昨年から開催しているクルーズ船会社、旅行会社、船舶代理店等を対象とした説明会を9月に東京で開催しました。本県からは県及び秋田、男鹿、能代の寄港3市の他、大館市等の内陸4市、JR等の民間企業が参加し、19社30名の業界関係者にクルーズへの取組み、オプショナルツアー商品等を説明しました。

 東京で開催するとそれなりの方が集まってくれるので、引き続き内容を充実して開催したいと考えております。

 10月には上記クルーズ船会社等を対象に2泊3日のファムツアー(旅行業者等を対象とした現地視察)を実施しました。初日は寄港地の秋田市内を案内し、2日目は大曲の花火秋の章をメインに県南を案内しました。

 寄港後のオプショナルツアーとしては、男鹿のなまはげ館、角館の武家屋敷が定番でしたが、増田の内蔵や大曲の花火等を紹介することで、秋田の観光資源の豊さを知って欲しかったからです。

 参加者は観光資源の他に昼食を取るレストランやその収容人員、外国語対応、バスの駐車場の有無等もしっかりチェックしておりました。

 また、海外クルーズ船3社の寄港地を決定するキーパーソンをお招きして、知事等がトップセールスを行うとともに、観光地等をPRすることで県内3港への寄港を働き掛けました。

 海外での誘致活動として、3月にクルーズ船の本社が多く所在するアメリカ・フロリダ州マイアミで開催された世界最大のクルーズ見本市や5月に中

国大連で開催された中日観光大連ハイレベルフォーラム及び北前船寄港地フォーラムに参加しました。両国では秋田犬が注目を集めました。

 クルーズは秋田だけでは成り立ちませんので、競合関係にない周遊ルートの位置関係にある小樽、富山・伏木、金沢、舞鶴、境港と環日本海クルーズ

推進協議会を設立しており、誘致及び情報交換の場として全国クルーズ活性化会議、東北クルーズ振興連携会議にも参加しています。

  1. クルーズ列車の取り組み

 今までお話ししましたように、秋田港へのクルーズ船の寄港回数は年々増加しており、さらに3千人超が乗船する13万トン超の大型船の寄港打診がありましたが、平成28年まではふ頭からの二次交通手段は、バスとタクシーのみでその駐車場も不足していました。

また、大型観光バスも全国最小の140台程度と少ないことから、秋田市内・県内各地への誘客拡大等の円滑な移動手段の確保が課題となっておりましたので、29年3月に「あきたクルーズ振興協議会」を設立し、「クルーズ列車ワーキンググループ」を立ち上げました。

 ワーキンググループでは土崎駅からふ頭まで敷設している貨物線に、旅客列車を運行するための施策を検討し、短期間の討議で竿灯期間中(8/3~8/6の4日間)にクルーズ列車をトライアル運行することを県、市、JRの三者間で決定しました。

 旅客列車を運行するためには国の許可が必要ですが、JRのご尽力もあって短期間で取得出来たことには感謝申し上げます。

 竿灯期間4日間にクルーズ船が4艘寄港しましたが、その間トライアル運行を実施しました。ふ頭から約600mの秋田港駅にスロープ2カ所の乗降設備を設置し、秋田駅まで15分の距離を4両編成(着座+立座=400名)の秋田クルーズ号が乗船客数に応じて1~2往復しました。運賃は大人200円、子供100円で運行期間中417名が利用しました。

 クルーズ船号の運行効果としては、バス移動では30分を要する秋田駅までの移動時間を15分短縮出来ること、秋田駅からJRを利用して県南、県北等の県内周遊等の選択肢が広がることが期待出来ることです。

 利用者からは列車は時間が正確だから出航時刻に遅れる心配がない、貨物駅を観光客向けに使用するアイディアやクルーズ客用との特別感も良いとの評価を頂きました。

また、業界からの評価も高くクルーズ・オブ・ザ・イヤー2017と平成30年度第91回日本港湾協会企画賞を受賞しました。

 今年度は国の交付金等を活用して22万トンまで受入可能な係留施設の整備、大型バス駐車場の増設、秋田港駅プラットホーム及び待合室の新設を実施しました。

 クルーズ列車を活用した県内周遊の様々なコースとしては、新幹線で行く角館、リゾートしらかみで行く十二湖観光等が販売されており、クルーズ船寄港により観光客が増加しております。

  1. 秋田港の将来計画

  秋田港の将来計画を今年7月に改定しました。秋田港に寄港するクルーズ船は月2回寄港するセメント運搬船と中島ふ頭を共用しておりますが、現状、海上保安庁の巡視船が使用している場所を埋め立てて、ポートセリオンの前にクルーズ船専用岸壁を新設することにしました。

 セリオンの前に寄港することで見栄えも良く、秋田港駅に近くなること、竿灯開催時には2艘以上の寄港希望がありますので中島ふ頭も利用することで、2艘同時に着岸が可能になるからです。

なるべく早く着工し、背後の道路の付け替えや駐車場の増設等も行いたいと考えております。

現状のクルーズ船の受入体制は、行政が主体で民間に業務発注しておりますが、これではクルーズ船寄港の経済効果も限定的なので、今後は昨年3月に民間24団体、行政21団体が会員である「あきたクルーズ振興協議会」に受入業務を移行することで、クルーズ客及び経済界の満足度向上を図って行きたいと考えております。

ポートセールス、アクセス・ターミナルの整備等は行政の仕事ですが、乗客にモノ、体験、感動を売ることで乗客を満足させ、儲ける仕組みを作ることは民間の仕事ですし、地域の方々にもクルーズ船の見学、乗客とのふれあいを通じての観光案内や語学体験で相応の満足を得て頂きたいと思っております。

 新たな取り組みとしては、出港時に大曲の花火を県のサービスとして5分間で百万~2百万程度掛けて打ち上げておりますが、今後はこの花火を船会社が買って打ち上げるようセールスしたいと考えております。

 先ほどお話ししましたが、九州、沖縄には年間2百万人のクルーズ客が来ておりますが、この方々に「あきたこまち」をお土産として販売が出来ないか検討しております。

 中国東北部で作付けした「あきたこまち」が北京、天津等の大都市で販売されていることから、中国では「あきたこまち」はブランド米として浸透しておりますが、同国に直接輸出するには種々のハードルがあるため現状難しいため、

九州、沖縄を巡るクルーズ客のお土産用として販売したいと考えております。

 県民が気軽にクルーズに親しんでもらうために、先ずは秋田港から苫小牧、新潟、敦賀に出航しているフェリーでの船旅を利用するよう船主である新日本フェリーと相談したいと考えております。

また、パスポートの取得率が低い県民がクルーズでの国外旅行を楽しんでもらうために、セリオン3階にクルーズPRコーナーを設置しました。

 さらに、内航クルーズ船の乗客はほとんど首都圏の方ですので、秋田に興味を持ってもらい秋田に住んでもらいたいと考えて、11月2日にMSCスブレンディグが寄港した際に、移住相談コーナーを設置しましたが、結果的には相談は1件も無く素通りされてしまいました。

 ジャパネットが募集したツアーでしたので、乗客は情報感度が高いと思いますので、次回は「秋田に住んでみませんか!」とか「古民家が安い!」とかのキャチフレージを掲示して、興味を持ってもらい相談に繫がるようなコーナーにして、移住に結び付けたいと考えております。

(文責:秋田人変身力会議 事務局長 永井 健)

 

第62回変身力研究会報告/「秋田の田舎だから出来るビジネス」~その見つけ方・育て方・拡げ方~

 9月4日に武田昌大氏(シェアビレッジ社長)を講師にお迎えして、協働大町ビルで「秋田の田舎だから出来るビジネス」~その見つけ方・育て方・拡げ方~をテーマに第62回変身力研究会を開催しました。以下は講演要旨です。

  1. はじめに

 荒谷会長からもお話しがありましたが、私もかなり変人だと思っております。変身力という言葉は人が引き寄せられるパワーを持っていると感じておりますので、私の好きな言葉です。

 変身とは他の姿に変わることだと思いますが、私も変身しました。8年前、東京のゲームソフト会社に勤務していた23歳頃は体重が64㌔でしたが、現在は33歳の秋田に住む体重84㌔の社会起業家に変身しております。

 見た目だけではなく、人生の節目、節目で変身を重ねておりますので、先ずは自己紹介を兼ねて変身の軌跡をお話しします。

 私は昭和60年に旧鷹巣町で生まれ、地元の小、中学校に通う新しい物,面白い物特にゲームの好きな子供で、将来はゲーム会社で働きたいと思っておりました。

 当時の鷹巣町はゲームセンター、ボーリング場、カラオケ、映画館も無い田舎でしたので、将来は刺激的で楽しい都会で暮らしたいとの想いを抱いておりました。

 大館鳳鳴高校の卒業時に新設された立命館大学情報理工学部に進学、情報分野の最先端技術を身に着けて卒業し、子供の頃からの夢であった東京所在の大手ゲームソフト会社スクウェア・エニックスに就職しました。

  1. 秋田のために出来ること

 秋田・田舎嫌いの私が秋田を好きになっていくのは、会社に入って2年目の24歳の頃からです。正月やお盆に帰省すると鷹巣の商店街はシャッター通りに変貌していました。

東京は人で溢れているのに、鷹巣の街中は車も人も通らない寂しい街に変貌してしまいました。人口減少とか高齢化は耳にしていましたが、故郷の現状を見てその実態を理解し、自分が生まれ育った故郷が無くなってしまうとの想いから変身することにしました。

自分が秋田のために何が出来るかを考えた時に、秋田が嫌いだったために秋田の良さを何も知らなかったので、先ずは秋田を知ることから始めました。

ネットで東京・秋田・イベントと検索したところ「秋田を盛り上げるためのイベント」を新宿で開催しますとの記事を見たので、出席することにしました。

会場は新宿歌舞伎町の前はキャバレーだったと思われる風林会館でしたが、入ってビックリしました。秋田のために何かをしたいと考えている主に秋田県出身の若者達が300人も居たからです。

主催者は今も活動している秋田出身の東京在住の若者達の任意団体「WE LOVE AKITA」でした。私は自分よりも若い人達がやっていることに悔しさを感じましたが、秋田を知る手掛りを得るために入会することにしました。

会の当時のメインのイベントは、青山の国連大学前に土日に開設されていた「ファーマーズマルシェ」に出店し、秋田の産物を販売することでしたので、私もボランティアでお手伝いすることにしました。

マルシェを手伝って感じたことは、秋田から取り寄せた野菜を生産者で無いのでストーリーも話せず、通行人に無言のまま販売しているので、リピートの可能性も感じられないこと、運賃等の経費が掛かることから儲からないということでした。このためこのままこの事業を続けていいのか、自分ならどうするかを考え始めました。

  1. 米の直販会社を設立する

他県での講演で秋田の名物を知ってますかと質問すると、なかなか出てきませんが、最近は金農と直ぐ出てきます。本当に金農のPR効果は絶大です。

秋田の名物と言えば日本三大美人、秋田犬、稲庭うどん、ハタハタ、きりたんぽ等色々ありますが、私としてはお米です。食料自給率が全国1位に貢献しているのはお米の生産量が全国3位と多いからです。銘柄米あきたこまちも私が生まれた頃から頑張っています。ということで秋田と言えば何といってもお米だと私は思っております。

 しかし、農家は超高齢化が進んでおりその60~70%が65歳以上で、メインが80歳以上です。このため今後5~10年でほとんどの農家が廃業に追い込まれるために、その農地を60代以下の農家や新規就農者が受け継がざるを得ない状況になると予想しております。

 さらに米価の下落が追い打ちを掛けています。最近は上昇傾向にありますが2010年は60㌔9千円代と前年比30%近く下落する等農家経営を圧迫しました。

 しかしこういう状況にあっても、基幹産業である農業特に米作農家を元気にしなければ、秋田は元気にならないと考えましたが、私自身は農家の出身でないので、農業について全く知りませんでした。

 このため農業を学ぶために月~金は東京で働いて、土日は車で秋田に帰る生活を3か月行い、延べ100人の農家から教えて頂きました。

 そこで解ったことは、農家がそれぞれの流儀で作ったあきたこまちが、農協に出荷されるとブレンドされ消費地に配送されるために、個々の農家の努力が評価されない仕組みになっていることです。

 収量については個々の農家に還元されるものの、食味等については評価の対象外ということで、農家の意欲を損なうようなシステムになっていることが解りました。

 秋田の農業は高齢化、低賃金、流通、嫁不足、後継者不足等多くの課題を抱えておりますが、この課題を解決するために農業の遣り甲斐とは何ですかと100人の農家に聞きました。

 答えは一つでした。一人でも二人でも直接購入してくれた方が、あなたのお米が旨かったので、来年も頼むと言われることが、遣り甲斐だと言ってました。

 現状の米の流通は、消費者から直接評価を聴けるシステムになっていないので、農家の遣り甲斐を創るためにも直接流通のシステム、お客さんから直接声を聴けるシステムを作りたいと考えました。

そこで3代目の若手農家に声を掛け、トラクターに乗る男前達を意味する「若手米農家集団トラ男」を立ち上げました。なぜ男前にしたかというと農業には暗いイメージがあるので、明るいイメージにチェンジしたかったからです。

こだわりとしては、田んぼに力と書いて男と読みますが、農家こそが真の男だと主張するためにトラ男にしました。メンバーは若手農家3人組で燃える愛采家TAKUMIとかそれぞれにキャッチコピーを付けて、2010年に私が未だゲーム会社に在籍しながら、自前のウェブサイトを立ち上げて、生産者の名前を付けたブレンドしない純米として販売する通販事業を10月から開始にしました。

開始直後は地元の農家や農協から「お前達何をやっているんだ」と嫌味を言われましたが、2011年4月にNHKクローズアップ現代に取り上げられると手のひらを返したように「お前達はやると思っていたよ」と言われました。

 ネットで販売する他にイベントにも出店したことから、販売目標も4ヵ月で達成しましたが、販売量も少ないのでこれで農業を変える、流通を変えることは

出来ないと考えて会社を立ち上げました。

 会社を立ち上げるには資金が必要ですので、クラウドファンディングで調達することとし、日本で最初にサイトを立ち上げたレディフォーで募集しましたがうまく行きませんでした。その当時の日本では未だネットで資金を集めることが、広く理解されていなかったからです。

 その後同じクラウドファンディングの運営会社であるキャンプファイヤーで百万円調達しましたが足りないので、内閣府が募集していた社会起業家支援金に応募し、240チームのなかで1位となり300万円を獲得して同年8月に㈱KEDAMAを設立しました。

  1. 米の売り方を変える

 会社の業務は大きく分けると流通とファン造りです。ネット販売、卸、定期販売、海外展開とソーシャルネットワーク、メディ戦略、クラウドファンディング、イベントの8つのことをやりながら販売とお客様造りを行いました。

 SNSだけではなくお客様と直接触れ合うことも大切だということで、東京で毎月きりたんぽを食べる会等のイベントを開催しておりますが、毎回出席者が増えており、出席者がネットで購入してくれる等ファンが増えております。

 イベントは東京だけではなく地元秋田でも稲を刈り、釜戸でご飯を炊く等の体験ツアーも開催しております。

 流通も自前だけでは無く、無印良品、イオン、高島屋に卸しており、東京ガスと連携して料理教室を開催しています。

 SNS等での露出が増えたことでメディアにも注目して頂き、NHKでは壇蜜さんとも共演させて頂きました。

 おいしいお米を高く買って頂くという時代ですので、売り上げも順調に伸びていましたが、東京のお客様と話しているとお米の炊き方を知らないので、折角の美味しいお米が、炊くと不味いご飯になっていることに気付きました。

 そこでお美味しいご飯を提供するために2017年10月に東京日本橋にお結び屋ANDON(あんどん)を開店しました。

 同店は4階建ての住家を3階まで借りており、1階はお結び屋兼スタンドバー、2階は本屋、3階はイベントスペースとし秋田の農業や精米の仕方、炊き方を学んだ後にお結び造り等のワークショップを開催しています。

1階のお昼は付近の勤め人を対象とした昼食のテイクアウトショップとなっており、注文を受けてから握るお結び2個と秋田産の味噌を使用したお味噌汁を販売しています。夜は秋田の銘酒と産物を肴とするバーになります。

 お米とか農業について知ってもらうような新しいかたちのアンテナショップ

という感じで営業していますが、折角来てもらったらのですから秋田のファンになってもらうために、田植えとか稲刈り等も案内しております。

 お米を売って、食べてもらって、秋田に来てもらうサイクルを作って行きたいと考えております。

  1. シェアビレッジを開設

 地域活性化に必要なお金は物を売って外貨を稼ぐことと、来てもらってお金を落としもらうことが考えられます。もちろん資金の地域内循環も大事ですが人口が減少して行く訳ですので、この二つが先ず必要だと考えました。

 秋田を元気にする三段階を考えました。先ず知ってもらう、来てもらう、住んでもらうことですが、今までやってきたことは2段階目までですので3段階目の住んでもらうことを考えるには、都市と田舎の新しい関係を構築する必要があるのではないかと考えました。

 そんなことを考えていた時に出会ったのが五城目町所在の築135年の茅葺の古民家です。土間、釜戸、いろりがある間取りで8LDKぐらいの空き家が綺麗な形で残っていました。人が集まる場所が欲しいと思って見に行ったのですが、自分が住みたいと思うほど気に入りました。

 オーナーに会ったら茅葺屋根を葺き替えるだけで1千万円も掛かるので、3か月後に取り壊す予定であるとのことでした。最寄りのスーパーまで5K、観光地でもないところに立地している莫大な維持費を要する古民家を取得するのは大きなリスクですが、私はこの古民家を活用する仕組みを考えました。

 維持費を住む人が払い続けることは難しいので、維持費を会員でシェアする会員制の古民家民宿を考えたのですが、観光地でないので無理と判断しました。

 次にこの古民家に老若男女様々な人達が集う姿を妄想したので、ここは単に泊まるだけの場所では無く、なんか村ぽいと感じがしたので、年会費を都会人には意外感のある年貢として集めたらどうかと考えました。

 年貢が増えていけば日本の原風景である日本各地の茅葺の古民家を取得して

残せるのではないかと考えました。そして会員を村民と呼び年貢で古民家を維持するので、この仕組みをシャアビレッジと呼ぶことにして、私が村長即ち社長に就任しました。

 シャアビレッジの仕組みは、年貢を3千円納めてもらえば誰でも村民になれ、1泊3~4千円で利用でき、施設利用を里帰りと呼んでいます。さらに泊まるだけではなく、助太刀という制度もあります。村で不足している人手を村民のコミュニティで補う制度です。例えば屋根の葺き替えに必要な萱を刈り取って、葺き替えまで自分達でやります。昔は茅葺の葺き替えは村民が助け合ってやっていたことから発想しました。

 また寄合と称して飲み会もやっております。秋田の村民と東京の村民がウェブを通じて乾杯することで仲良くなり、秋田に行ってみたいなと考えるきっかけになればと考えてやっております。

 年一度夏祭りを一揆と称して土間で音楽ライブをやっており、毎年300人近くの人が集まりますので、関心のある方はぜひご参加下さい。

 五城目のビレッジは2014年に開設しましたが、その資金をクラウドファンディングで集めましたが、862名の方から6百万円余を出資して頂きました。現在の村民数は2,150名で47都道府県全てに村民がおります。

2016年には香川県三豊市仁尾町に第二ビレッジを開設しました。三方が山で一方が海という秋田県のような所で、高松市から1時間の愛媛県寄りの人口6千人の夕陽が綺麗な港町です。

 そこに松賀屋という屋号の敷地840坪、建坪360坪の40年間空家だったという大きなお屋敷をシャアビレッジに変えました。地元のお祭りで担ぎ手がいなくて困っていたので、東京から村民が駆け付け竜を担いだり、30年間途絶えていた盆踊りを復活させたり、ミカンやレモンの収穫体験のために人が集まる仕組みにしました。

 なお、2017年に開設したANDONを村役場にしたので、シェアビレッジは3拠点になりましたが、今後は12ヵ拠点まで増やして村民も100万人を目指しています。このため第3村、第4村を開設すべく全国を飛び回っております。

 また、2016年には内閣府の地域活性化伝道師に任命され、街創りのプロ300名の一員として年間50カ所程度を行脚しております。

  1. 地域の価値の見つけ方

 地域の価値の見つけ方としては、移動して比較することがポイントだと思います。秋田にそのまま居るだけでは秋田の魅力には気付きません。そういう意味では、私は移動して比較するということを職業にしているようなものですから、

秋田の魅力が沢山見えます。

 講演で秋田に行ったことがありますかと聞くと、ほとんどの方が行ったことが無いと答えますが、行ったことが無い都道府県ランキングでは、秋田がここ6年間1位です。そういえ意味では誘客の余地が最も高い県ということになります。

 秋田を訪問しない理由としては陸の孤島、行く理由が無いことを挙げる方が多いです。秋田はFBのユーザー数、ゲームソフトや楽器の購入数がワースト1、カメラの購入数がワースト3、CDの購入数がワースト4、映画館、ゲームセンター数が東北最下位です。

日本酒消費量がベスト2、睡眠時間がベスト1ですので、酔っぱらって寝ているのが秋田県人かと思いたくなります。

 しかし人口減少率、少子高齢化率等が最先端で進む秋田は課題先進県でもありますが、県内を廻っていると思っていたより人が居ること、観光資源や特産品が有ることに気付きます。

 アートは破壊から生まれる、クリエイティブ・創出は何かが無くなって行く時に生まれると私は思っております。そういう意味では、秋田は色んなものが無くなっていっている訳ですから、今がチャンスかなと思っております。

 マドリッド、北京、ニューヨーク、ローマの共通点は何でしょう。そう北緯40度上に存在しているということです。なんと秋田も北緯40度上にあります。見方を変えれば日本のニューヨークが秋田なのです。

 グーグルで秋田を検索するとずーと犬が出てきます。海外から見ると秋田は秋田犬ということになります。ということで北緯40度や秋田犬とかで秋田を海外に売り込んで行く方法はいくらでもあるのではないでしょうか。

 私が考える上での方程式は、3K・M二乗です。価値を見つけて課題を考えて解決策を作っていくことが、アイディアを出していく時の考え方です。アイディアを実現するために必要なのがメンバーとマネーです。

 どのようにして価値を見つけるかをお話しします。私がやっている農業や古民家は価値として見られていませんでした。東京から北秋田に来たお客さんが美味しいお店ありませんかと聞いても、地元の人はそんな店は無いと答えます。地元の人が地元の価値に気付いていないのです。

 気付いていない理由は行動範囲が狭く、少なく、他を知らないからです。コミュニケーション量が少ないからです。

  1. 価値の育て方・拡げ方

 日本各地を移動していると秋田の価値に気付きます。価値を見つけたら課題を考えて、価値を活用した解決策を策定すれば良いのです。それが逆になっているのです。社会的な課題から考えていくと何処も一緒ですので、解決策も皆同じになります。

 しかし価値から考えていくと地域でそれぞれ違いますし、自分のこととして考えると解決の仕方も変わってきます。社会的課題からスタートしても現場を見ると、本当はここが問題なのだと新しい課題に気付きますし、オリジナルなものが出来るのです。

 最後に解決策ですが当事者ではなかなか見つけられない、秋田のことは秋田の人ではなかなか見つけられないということがあるのではないでしょうか。そのため第三者とか異業種の方の力を借りるということがポイントです。私が農業や古民家と向き合った時は、第三者あるいは異業種の目で対応しました。

 シャアビレッジは村長、家主、家守、お庭番、大名で運営しておりますが、それぞれが事業をやっていますし、出身地も地元密着型3名、東京からの移住組2名がチームを組んでやっているので、上手く機能していると思っております。

 解決策を考えたら誰に伝えるのかを考えなければなりません。シェアビレッジの場合は田舎を持たない都市出身の若者をターゲットにしました。そのうえでデザイン、ネーミングとかキャッチコピーを作りました。

その結果関東地区には千人以上の村民がおり、その他の都市部には千人以上の会員がおります。年齢区分では16歳から80代までと広範囲ですが、20代から30代前半までが最も多い層です。

 実行段階で必要なのは仲間と資金です。人を巻き込むときに必要なポイントは五つあります。情熱、ちゃんと伝えること、ワクワクすること、共感してファンになってもらうこと、ウェブとリアルを両方掛け算していくことです。

 地域には2大世代がおります。何事にもネガティブなお年寄り世代と無気力な若者世代です。この人達を巻き込んでいかないと地域ビジネスは成り立たないので、巻き込む工夫をしなければなりません。

 この世代の人はFBをやっておりませんので、兎に角見せることがポイントです。お婆ちゃん達にはやって見せること、若者にはインスタとかツイッターとかでビジュアルで見せていくことが大事なことです。そして端的に伝えることです。

 なぜビジュアルとメッセージかということですが、世の中に流行っているソーシャルネットワークビジネスがビジュアル化、短文化しているからです。秋田県はこのような流れに疎い感じがしますが、絶対に取り入れていかなければならないと思っております。コンパクトでインパクトのあることをやるということです。タイトルで本文に興味を持ってもらうとうことです。

 例えばシェアビレッジでクラウドファンディングを募集した時は「年貢を納めて村民に!シェアビレッジ町村 村民千人募集します」をタイトルにしました。短文で面白そうと感じてもらい、本文に引き込むやり方です。

8. まとめ

今、田舎に足りないのは何でしょうかと聞くと真っ先に人口、若者、お金、情報、知名度が挙げられますが、私はワクワク感ではないかと考えております。

真面目に地域課題の解決に取り組むというよりは、ワクワクする仕組みにするとサービス、ビジネスに人は集まってくるのではないでしょうか。ワクワクする力、インターテーメントの力をもっと秋田に取り入れましょう。

 秋田は可能性が無限大にあると思っております。国の流れでみると国交省は民泊、農水省は農泊を推進しております。インバウンド・外国人観光客が今年は2千2百万人、2020年は4千万人、使用するお金が8兆円と予想されております。さらに総務省も移住や観光ではない関係人口の増加に2.5億円の予算をつけて推進しております。

 この民泊、農泊、関係人口の増加がまさに秋田にマッチしたビジネスではないかと考えております。手付かずの自然が沢山残っている秋田を体験するために、沢山の人を呼び込めるようなワクワクする田舎を創っていくことが、これからの秋田の田舎だから出来るビジネスではないかと考えております。

(文責:秋田人変身力会議 事務局長 永井 健)

 

第60回変身力研究会報告/「ザ・新聞記者」~進む政治の私物化と瓦解する官僚達~


 5月12日に望月衣塑子氏(東京新聞社社会部記者)を講師にお迎えして、

秋田ビューホテルで「ザ・新聞記者」~進む政治の私物化と瓦解する官僚達~

をテーマに第60回変身力研究会を開催しました。以下は研究会での講演要旨

です。

1.はじめに

 秋田には初めて来ました。私の天敵と言われている菅官房長官の故郷という

ことで、縁を感じながら足を踏み入れました。私が所属する東京新聞は、関東

の一都六県をエリアとするブロック紙で、名古屋の中日新聞社が親会社になっております。

 新聞記者は地方の支局2~3カ所を回ってから本社社会部勤務となることが多いのですが、私の場合は3年間千葉、横浜支局で勤務しその間、警察の捜査二課や地方検察庁特別刑事部が扱う、政治家が関わる贈収賄事件に興味を持つようになり、田中角栄元首相を逮捕した東京地検特捜部を担当したいと希望を出していたところ、4年目に希望が叶って本社社会部に配属されました。

2.スクープ

 私が東京地検特捜部の担当になった頃に特捜部が取組んでいたのは、日本歯科医師連盟(日歯連)からの政治家へのウラ献金疑惑でした。私は関係者への夜討ち朝駆けを繰り返した結果、日歯連からウラ献金を受けた自民党所属の国会議員の実名が、金額や日付とともに20数名ほど記載されたリストを日歯連関係者から入手しました。

 このリストには野中弘務元自民党幹事長への5千万円のウラ献金も記載されておりましたが、検察庁の裏金問題を調査していた自民党の追及を野中さんがモミ消してくれたということで、検事総長の指示で立件しませんでしたが、最終的には橋本派への1億円のウラ献金を立件し、橋本元首相が橋本派の会長を辞任するとか、自民党の政治資金団体である国民政治協会の大物事務局長を事情聴取するとか、自民党の中枢に切り込む捜査をしました。

 このように当時の検察は、権力を監視するのは自分たちであるとの気骨があったように思いますが、最近の森本問題では詐欺罪で籠池理事長夫妻を起訴するだけで、8億円を値引きした財務省理財局関係者を立件しない大阪地検の姿勢には問題があると思います。

 なおその後、日歯連が公明党所属の坂口労働大臣にもウラ献金していたということを東京新聞がスクープしたところ、同党から名誉棄損で告訴され、東京地検特捜部から厳しい事情聴取を受けることになりました。

 結果としては不起訴処分になったものの、被疑者として事情聴取を受けたことは、その後の被疑者への取材について考えされられるものがありました。

 特捜部担当は夜討ち朝駆けが常態化していましたので、午前1時過ぎに検事から銀座で飲んでいるから来いと呼び出されハイヤーで駆け付け、朝4時頃に解放されたのでそのまま6時に毎日ジョギングしている検事から情報を得るためにそのハイヤーを使用したことで、会社の自動車部からハイヤーの使い過ぎということで、1年半後に整理部に異動を命じられました。

 整理部での仕事は各部署から送られてくる記事の価値を判断して、見出しを付け、紙面をレイアウトすることでした。異動当初は8時間椅子に座っての作業は苦痛でしたが、送られてくる記事を見ているとそれまでは頭の中は事件一色だったのですが、国際的なニュースや経済、家族の問題、教育等が詰まって始めて新聞となり、一個の商品として読者に届けられるということを学びました。

 しかし整理部で1年半も過ぎるとまた現場に行きたいと血が疼いて来た頃に、私のしつこい取材を評価してくれた他社から現場に戻って来ないかと声を掛けられました。

 特に日歯連問題で衝撃的なスクープを出し抜かれた読売からは熱心に誘われたので、同社の面接等もパスし最終判断する段階で父親に相談したところ、それまで進学や就職について何も言わなかったのに、長い沈黙の後「読売だけは行かないで欲しい」との回答があり、一夜悩んだ末に父親の意見に従いました。

 その後解ったことですが、読売の社則では読売の記者の肩書で講演等の情報発信することは、許可されないということでしたので、移籍していれば今回のように皆様とも会う機会が無かったということになります。

 その1年後に埼玉支局に異動になりますが、埼玉勤務は心身とも充実した1年半でした。印象に残っている事件としては、埼玉地検熊谷支部の國井検事が取調室で暴力団の組長に子分の組員への電話を命じ、隠し持っていた多くの拳銃の中から一丁だけ組長の自宅に持って行き、それを検察に提出したことをスクープしたことです。

 その後國井検事は大阪地検に異動し、無実の厚労省村井課長を障害者郵便物特例法違反で起訴しますが、その際同僚検事が証拠を改竄していたことが暴かれる等、検察の一大不祥事を引き起こしております。

3.武器輸出問題に取組む

 埼玉支局勤務から社会部に戻ってから結婚、出産という人生の大きな節目を迎え、二児出産後の育児休暇明けに経済部に異動しました。東日本大震災後の原発が大きな問題となっていましたが、子育てとの両立が難しくイライラしていた時期に、部長から日々の取材にこだわらずに調査報道に腰を据えて取り組めばいいのではとのアドバイスを頂きました。

 第二次安倍内閣は平成26年4月に「武器輸出三原則」を撤廃し、「防衛装備移転三原則」を閣議決定しました。それまでは武器輸出に慎重な姿勢で取組んできたのに、武器の輸出入を実質的に解禁したのです。

 戦前、戦争に突き進む政策を新聞が止められなかったとの反省のもとに、東京新聞も政府の政策を監視してきましたが、武器輸出は日本の平和国家として進んできた道を覆すものであると考えて取り組むことにしました。

 しかし、取材は困難を極めました。日本最大の防衛産業メーカーである三菱重工の取引先に出掛けた時に、「望月記者の取材には答えなくていいとの連絡が三菱からあったので申し訳ない」と取材拒否されました。

 防衛省の記者クラブに入ったので、幹部に挨拶に行ったら延々と1時間防衛の重要性について説教されたこともありました。

 それでも取材を続けていくと武器製造には関わりたくないと話す経営者もおりました。死の商人と呼ばれたくないということと、武器の機密漏洩に関する

規則を守るのが大変だということでした。

 大型の輸出商談としては親日家だったオーストラリアのアボット首相からそうりゅう型潜水艦の共同開発の申出があり、積極的に対応していましたが、同国に中国人が毎年45万人も移民している現実を知り、移民を通じて機密情報が中国に漏洩することを懸念して中止となりました。

 なお、三菱重工や川崎重工の防衛需要への依存度は現状15%以下ですが、アメリカのロッキード社のように防衛需要が60%以上の企業もあるので、将来的には日本の企業も防需依存がこれ以上多くならないように監視してゆくことが大事だと考えております。

  1. 森友学園問題

 昨年の2月9日付け朝日新聞の「森友学園に大阪の国有地売却 価格非公表 近隣の1割か」のスクープで、森友問題に籠池夫妻の強烈な個性と相まって火が付きました。

 当初、中日・東京新聞グループは関西地域の問題と捉えて、積極的ではなかったのですが、安倍昭恵夫人が学園で講演している動画が毎日のようにテレビで放映されたことから、財務省が絡む汚職問題に波及していく可能性があると考え、編集局長に直訴してこの問題の取材チームに加えて頂きました。

 なお当時の萩生田官房副長官がマスコミ各社に報道の中立性(賛成、反対意見を半々で報道)を確保するようにとの文書を配布したことが、この問題に対する報道姿勢に影響を与えたことは否めないと思われます。

 しかしテレビ東京だけが萩生田文書に忖度することなく、昭恵夫人が森友学園の瑞穂の国記念小学院の名誉校長に就任していたこと等を報道し、高視聴率を挙げたことから、各社も競って報道するようになりました。

 加えて籠池夫妻のパフォーマンスがワイドショー向きだったことも影響していると思いますが。

 このような事態に対応するように篭池夫妻が昨年9月に逮捕されてから釈放されていないのは、検察が安倍首相に忖度しているのではと疑わざるを得ません。

 また、昨年12月に提出された会計検査院の報告書には、8億円余の値引きについて30%~70%程度根拠が不十分であると記載しております。

 財政法では国有財産は出来るだけ適正価格で売却することとしておりますが、本件については特例を連発しております。売却を前提とした土地の貸付、売却代金の延納やローンの分割払い、売却価格を提示していないこと等です。

 以上のとおり国政を揺るがす大問題に発展した森友問題をスクープした朝日新聞の記事は、今年の新聞協会賞ではないかと予想しております。

 その後国会に提出した森友学園への土地売却に関する公文書が改竄されていたことが判明しました。行政の最強組織である財務省が公文書を改竄して国権の最高機関である国会に提出していたということは、民主主義の根幹に関わる問題です。

  1. 瓦解する官僚

この問題で参考人として出席した当時の佐川理財局長は、交渉記録、政治家の関与、価格交渉は一切ありませんと明言しましたが、官僚の国会答弁は記憶にありませんとか曖昧なものが多いのに、この答弁は奇異に感じました。

 この答弁の基になったのが安倍首相の「私や妻がこの問題に関与していたら首相のみならず議員も辞職する」との国会答弁であったからと言われております。

 その後佐川氏は証人として国会に招致されましたが、その際には「刑事訴追の恐れがあるのでお答え出来ません」を連発し、事実上証言を拒否しましたが、首相、首相夫人、官房長官等官邸からの関与は一切ありませんと断言しました。

 福田財務次官のセクハラ問題も前代未聞の事件でした。録音があるのにその事実をなかなか認めなかったこと、下村元文科大臣の「週刊誌に記事を売ったことは嵌められたようなもので犯罪ではないか」との発言、麻生財務大臣の「

次官の音声を流すなら告発した女性の音声も流したほうが良いのではないか」と女性の二次被害を助長するような発言には呆れてしまいました。

 首相及び官房長官が麻生大臣の発言を制御出来ないのは、首相の三選支持を得たいためとも言われております。

 昨年5月に朝日新聞が当時内閣府国家戦略特区担当であった藤原審議官が、加計学園獣医学部の認可は総理のご意向であるとの文科省宛て文書の存在を報道しましたが、この報道に菅官房長官は怪文書と一蹴しました。

 その1カ月後に共謀罪法案が参議院で強硬採決されますが、総理は共謀罪法案審議中に総理の腹心の友と言われる加計孝太郎氏との関係を質疑されるのを嫌がったため急いだとも言われております。

 国会閉会後に菅さんが怪文書と一蹴した文書が文科省に存在していたことが明らかになりますが、菅さんは怪文書との発言を撤回しませんでした。

 文書のなかには萩生田官房副長官の指示で、藤原審議官が獣医学部新設の3要件として新たに付け加えられていたものがありましたが、その要件の一つが広域的に存在しない地域に限るということでしたので、それまで新設を計画していた京都産業大学が合致しないことになり、加計学園だけが要件を満たすことになりました。

 この件に関して萩生田副長官に問合せたところ、同人から藤原審議官には指示していないとの回答がFAXであり、山本地方創生大臣が記者会見で私が指示しましたと明言しました。ちなみに萩生田副長官は衆議院選挙落選中に加計学園が経営する千葉科学大学の客員教授に就任しており、その間月10万円の手当を支給されていました。

 また、前川前文部次官の会見で明らかになった泉首相補佐官は、獣医学部の新設に抵抗していた農水省や文部省の幹部を呼びつけて早期の認可を指示していたようです。泉補佐官の主な任務は原発や新幹線のインフラ輸出ですが、武器輸出や加計学園問題にもその推進役としての役割を果たしていたようです。

6. 前川前文科事務次官

 読売新聞が昨年の5月22日に「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜」と社会面で報じましたが、その直後に朝日新聞、週刊文春に同氏とのインタビュー記事が掲載され、同日に同氏の記者会見が行われました。

 前川氏は記者会見で「萩生田副官房長官が指示し藤原審議官の意向を記載した文書を文科省在職中に見たし、共有された文書なのでちゃんと調べれば出てくると述べると共に、獣医学部新設は十分な根拠が無いとし、文科省は公正と公平を貫いて欲しい」と話しました。

出会い系バー通いについては「女性の貧困の実態を調査するためだった」と話しましたが、私としてはちょっと無理があるのかなと思い、後日インタビューすることにしました。

 読売新聞が前川氏の口封じのためにこのような報道をしたとしたら、マスメディアとしてやってはいけないことを、一歩踏み越えてしまったとショックを受けました。

 戦前、政府の間違った戦時状況を国民に知らせ続けたことを反省し、仮にそういう事態が発生した場合にはどのように権力と対峙していけばよいのかを考えさせられました。

 前川氏へのインタビューでは「文科省に入ったのは戸籍のない子や貧困家庭の子供達に充分な教育を与えるためには何ができるかを考えるためであり、民放のドキュメンタリー番組で、出会い系バーでお客と会話をするだけで数千円をもらう高校生ぐらいの女性の存在を知り、今の教育行政でも取り残されている子達がいるので、何が問題なのかを探るためだった」とのことでした。

 「女性のほとんどは数学に躓いて高校を中退していたので、高校での数学の必修を外したらどうかと文科省で提案したが聞いてもらえなかった」と話しておりました。

 なお、前川氏に安部政治について聞いたところ「首相の最終目的は9条の撤廃を含めた憲法改正だと思うが、第一次内閣で教育基本法を改正した頃からその政治姿勢に危惧を感じていた」と話しておりました。

  1. 首相、官房長官の記者会見

 官邸での首相の記者会見が物凄く減っております。民主党政権時は年間26回行っていましたが、昨年の安倍首相の会見は4回でした。

 官房長官記者会見は平日午前午後と2回定時会見を行っておりますが、その様子を動画で見るときっちり聞いていないことが解りました。出席する記者は主に菅番の政治部記者ですので、日頃の付き合いもあり長官が答え難いことは聞けないだろうと思ったので、記者会見に出たいと部長にお願いしたところOKが出ました。

 昨年の6月6日に初めて官房長官記者会見場に足を踏み入れて「官邸は前川前事務次官等次官級の身辺調査や行動調査をしているのですか」と質問したところ「承知しておりません」との回答があったので、質問を重ねるうちに進行役から「簡潔に願います」との注意があったが、怯まずに質問を続け一人で10分以上質疑に時間を使っていました。

 テレビ等でも報道されたことですのでご存知の方も多いと思いますが、元TBSワシントン支局長から性的暴行を受けた女性が、警視庁に告訴状を提出し受理され逮捕状が出たので、捜査員がアメリカから帰国する同氏を成田空港で待っていたが、上層部からの指示で逮捕が停止された案件がありました。

 6月8日に2回目の記者会見に出席して前川氏の件と上記案件を計23回質問したこともあり、記者会見時間が37分と長時間に及んだことで、菅長官は会見後に定例となっていた菅番の囲み取材に応じないで、足早に去って行ったことがありました。

 このためかその後当社の官邸キャップから「一人一つの質問が長いとか、一人で何度も質問することで、質問が一人一問に制限される等の懸念があるから注意して欲しいと、記者クラブの総意として伝えられた」と電話がありました。なにか釈然としなかったので、官邸番の先輩記者に電話したところ「総意はなかったことになった」とのことでした。

 その後森友、加計問題や逮捕停止問題へのそれぞれの官庁の対応をしっかり調査すべきであると、記者会見で何度も菅長官に質問しましたが、「調査はしません」の答弁が繰り返されただけで進展はありませんでした。

 加計学園の獣医学部新設問題が過熱していた一昨年の秋に、毎月のように安倍首相と加計孝太郎氏がゴルフや会食をしていたことが報じられています。

 首相は国家戦略特区の最大の職務権限者ですから贈収賄疑惑も生じ兼ねません。首相は裸の王様になっているのではないか、首相周辺の数人の人達だけが疑惑を否定しているだけで、声には出さないけれども多くの人は首相と孝太郎氏の関係を疑惑の目で見ています。

 首相とマスメディア首脳との会食も度々開催されていることが報道されていますが、首相の憲法改正試案を読売新聞が報道する等、マスメディアも首相に取り込まれているように思います。

 私は今年の1月から質問が1問に制限されましたが、制限された理由も言われておりません。しかし3~4問質問している他社の方もいたので、その実態をツイッターで呟いたところ2問まで可能になりました。

 また、北朝鮮対応について米軍の微妙な方針変更が見受けられたので、日本は圧力一辺倒で良いのかと質問したところ、方針変更は無いとの回答があったが、そのことが報道されると北朝鮮のスパイではないかとバッシングを受けました。

 昨年の8月にNHKが加計学園獣医学部の認可保留へとのニュースを流したので各社が一斉に確認取材をし、そのことを官房長官に「認可保留になったのは内閣府での議論が不十分であったのではないか」と質問をしました。

 認可保留は私が質問した日の午後に正式発表されましたが、内閣府の報道室から「未確認情報で質問することは止めてもらいたい」との苦情がきました。

 北朝鮮がミサイルを発射した2回とも、安倍首相はそれまで避けていた官邸に宿泊していたので、記者会見で「首相が官邸に宿泊する翌日にミサイルが発射されると思っていいですか」と質問して、官房長官だけではなく首相も怒らせてしまったようですので、そのような苦情がきたのではないかと思っております。

  1. メディアの役割

 メデイアの役割は権力の監視・チェックです。世界の報道自由度ランキングでは鳩山政権の11位が最高で、昨年は72位、今年は67位とG7の中では最下位です。

 ジャーナリズムとは報じられたくないことを報じることであり、その以外のことは広報に過ぎないと私は思っております。萩生田文書が出てきて以降、萎縮していてはいられないとの動きが出てきております。

 会社の意向がどうかではなく、ジャーナリストとしてどういう信念を持ってやるかだと思います。今、会社やネットフリーランスを超えた勉強会も始まっております。

先ず、自分が世の中のために何が出来るかを考え続けなければいけないと思います。五感をフルに使い、自分が権力と対峙出来る位置にいるかどうか、自分の疑念が自分の内のなかで解消できたかどうか。世界の人のためにベストになっているか、少なくともベターになっているか、自分ため、お友達のためではなく、世界の人達のためになっているかを考え続けていかなければならないと思っております。

  1. おわりに

 最後に憲法についてお話します。今年は憲法改正の発議は見送られると言われておりますが、安倍首相が自民党総裁に三選されれば必ず憲法改正が発議されます。憲法9条を核とする現憲法が改正されないためにも、現憲法の制定を提唱したとされるGHQマッカーサー元帥の言葉を紹介致します。

「正気の沙汰とは何か。武装制限が正気の沙汰か、それこそ狂気の沙汰であるという結論は、考えに考えた末にもう出ている。世界は今一人の狂人を必要としている。自ら買って出て狂人にならない限り、世界は分割競争のアリ地獄から抜け出すことは出来ない。これは素晴らしい狂人である。世界史の扉を開く狂人である。その歴史的使命を今こそ日本が果たすのだ。」

 彼のこの言葉で、国民が一人も戦争に巻き込まれることない平和国家日本が築かれた来たので、この言葉を次の世代に引き継いで行きたいと思っております。

 バッシングの多いなかで私が自分に言っていることがあります。「あなたのしていることのほとんどは無意味である。でもそうしなければならないことがある、それをするのは世界を変えることでは無く、世界によって自分自身が変えられないためである」

以 上

(文責:秋田人変身力会議事務局長 永井 健)